1.はじめに
白山基地変電所の記事を書き終わって記事をUpした後、工事誌を読み飛ばした箇所があった。
1569. 北陸巡検10 JR西日本 白山総合車両基地変電所と白山車両基地内き電系統 北陸新幹線 現物と単結線図との照合
基地き電と本線き電の突合せ箇所には切替開閉器があり、中セクション(SN部)で異相区分を通過している。
北陸新幹線電気工事誌には、「基地の回送線の切替開閉器は、新白山電源と白山基地SSに突合せとなり、白山基地変電所は不等辺スコット結線変圧器を使用しているため、スコット結線変圧器を使用している新白山電源とその最大位相差は135°電位差が約56㎸となります。そのため他の変電所直下の切替開閉器が極間電圧42㎸を使用しているのに対して回送線の切替開閉器は60㎸の高耐圧型が使用されています。」とある。なぜ高耐圧化しなければならなかったのか?これが今回の記事の主題である。
2. 二つの変電所は同じ送電線から受電している
新白山変電所と白山基地変電所は、北陸電力送配電の新小松—北金沢間154kV送電線からそれぞれT分岐で受電している(系統構成図のH048・H047)。引き下ろしは同一の鉄塔から、2回線ずつ2組で行われている。途中に変圧器を挟まないので、両所の受電三相の位相は同じである。
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図1 白山の二変電所と手取川水力発電所をつなぐ154kV系統(模式図) |
新白山変電所と白山基地変電所は、北陸電力送配電の新小松—北金沢間154kV送電線からそれぞれT分岐で受電している(図1のH048・H047)。引き下ろしは同一の鉄塔から、2回線ずつ2組で行われている。途中に変圧器を挟まないので、両所の受電三相の位相は同じである。
さらにこの系統には、手取川第一(電源開発、25万kW)、手取川第二(北陸電力、8万9,500kW)、手取川第三(北陸電力、3万300kW)の三つの水力発電所が、開閉所を介して南金沢変電所につながっている。合わせて最大36万9,800kWである。南金沢変電所は275kV系統の加賀変電所とも結ばれている。白山の二つの変電所が受電する154kV送電線は、その背後に強力な電源を控えている。
その強さは、受電点の短絡容量に表れる。白山基地変電所の受電点短絡容量は、最大3,100MVA、最小2,100MVAである。
1593で述べたとおり、平衡装置の要否は受電点の短絡容量で決まる。三相側の電圧不平衡率は、おおむね負荷の大きさを短絡容量で割った値になる。白山基地の不等辺スコット結線変圧器は30MVAで、2台のうち1台が常用、1台が予備である。変圧器容量いっぱいの負荷を仮定して、上限を見積もると
$$\frac{30}{3100} \fallingdotseq 0.97\%,\qquad \frac{30}{2100} \fallingdotseq 1.43\%$$
短絡容量が最も小さいときでも1.43%である。余裕は大きくないが、記事1593で示した平衡装置の要否の目安1.5%前後を下回り、電気設備技術基準の3%(連続2時間の平均)には十分に収まる。これが、白山基地変電所の不等辺スコット結線変圧器に平衡装置(コンデンサ・リアクトル)が付属していない理由である。水力発電所がまとまって接続していることは、この短絡容量の大きさを支える背景の一つにあたる。
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| 図1 同一の鉄塔からの2回線×2の引き下ろし |
新白山変電所はスコット結線変圧器で、主座(M座)巻線をU-W間に、T座巻線をU-W間の中点からV端子に接続している。二次はM座・T座それぞれ60kVで、ATき電のためATで1/2となり、トロリ線の電圧は30kVとなる。
白山基地変電所は不等辺スコット結線変圧器(30MVA)で、主座巻線(二次m-o)をU-W間に、T座巻線(二次o-t)をU-W間の中点からV端子に接続し、二次の斜辺から単相30kVの一回路を出力する。
両変電所とも受電はR=U・S=V・T=Wで、途中で相を入れ替えていない。白山基地変電所は不等辺スコット結線変圧器で、二次のt-o間とm-o間の電圧は全タップで等しく(定格タップで21.21kV=\(30/\sqrt{2}\)kV)、スコット角は45°である。
不等辺スコット結線変圧器では、t端子をトロリ線に引き出し、m端子は中性線にのみ接続する。この接続はどの変電所でも統一されている。基地内は、2台の不等辺スコット結線変圧器に対応したき電用遮断器室から、同位相の一き電で基地全体をき電している。
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| 図2 新白山変電所と白山基地変電所のき電系統図 |
3.回送線の切替開閉器は60kVの高耐圧型 第1節で引いた工事誌の記述にある回送線の切替開閉器は、新白山変電所のM座と白山基地変電所の突合せにある。
工事誌によれば、新白山電源との最大位相差は135°、電位差は約56kVとなる。そのため、他の変電所直下の切替開閉器が極間電圧42kVであるのに対し、この切替開閉器には60kVの高耐圧型が使われている。
この切替開閉器は基地入出庫用切替開閉器室にあり、中セクション(SN部)の加圧を切り替える。金沢開業時は入出庫線が単線だったので、1設備(常用・予備)で対応していた。また新白山変電所の中には、本線から基地内をき電するための延長き電遮断器室があり、これも入出庫線が単線なので1設備である。どちらも新白山変電所の中にある、基地変電所の機能の一部である。
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| 図3 基地内同位相一き電の図 |
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| 図4 延伸前の新白山変電所。基地入出庫用切替開閉器室と延長き電遮断器室 |
3.1 延伸の前後を通じて基地と向き合うのはM座
2015年の金沢開業から2024年の敦賀延伸まで、新白山変電所はM座のみの片座き電で、本線内は単一の座で上下線をタイき電していた。
き電用遮断器室とき電用遮断器(T及びF用)は片座分のみが設置され、き電用AT(単巻変圧器)も東京方の下り11・上り12だけが設置されていた(図4)。片座き電なので変電所直下に切替開閉器は無く、回送線の高耐圧切替開閉器だけが金沢開業時から設けられていた。
敦賀延伸後も、東京方(金沢方)の区間はM座が受け持ち、回送線の切替開閉器が突き合う本線側もこの東京方の区間である。基地と向き合う座は延伸の前後を通じてM座のまま変わっていないので、突合せの位相差135°も金沢開業時から変わっていない。
敦賀延伸の際に回送線が複線となり、基地入出庫用切替開閉器室は2か所となった。
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| 図5 現在の新白山変電所。赤丸が2か所となった基地入出庫用切替開閉器室の位置 |
2か所の切替開閉器は、どちらも同じ新白山変電所のM座(東京方の区間)と白山基地変電所の突合せにある。き電している変電所と座が同じなので、位相差はいずれも135°、電位差も同じであり、2か所目の切替開閉器も60kVの高耐圧型である。
4.135°をベクトル図で導く4.1 新白山の二つの座
新白山M座のトロリ線電圧(60kVをATで1/2にした30kV)を基準にとる。スコット結線のM座とT座は90°の位相差をもつ。
$$\dot{V}_M = 30\angle 0^\circ\ \mathrm{kV},\qquad \dot{V}_T = 30\angle 90^\circ\ \mathrm{kV}$$
4.2 白山基地の二次巻線
両変電所は同じ送電線から受電し、受電の相の割当も、主座をU-W間・T座をV端子に取る接続も同じである。したがって基地のm-o巻線は新白山M座と同じ直線上に、o-t巻線は新白山T座と同じ直線上にある。スコット角45°なので二つの大きさは等しい。
$$\dot{V}_{mo} = \frac{30}{\sqrt{2}}\angle 0^\circ\ \mathrm{kV},\qquad \dot{V}_{to} = \frac{30}{\sqrt{2}}\angle 90^\circ\ \mathrm{kV}$$
4.3 t端子をトロリ線、m端子を中性線に取る
トロリ線に出る電圧は、中性線側のm端子から見たt端子の電圧である。m-o巻線はレール側にあるため、その成分は向きが反転して加わる。
$$\dot{V}_{tm} = \dot{V}_{to} + \dot{V}_{om} = \dot{V}_{to} - \dot{V}_{mo} = \frac{30}{\sqrt{2}}\left(-1 + j\right) = 30\angle 135^\circ\ \mathrm{kV}$$
M座に対して、T座の90°にスコット角の45°が加わった位置に基地の出力が立つ。これが新白山M座と白山基地の位相差135°である。
ここで\(\dot{V}_{mo}\)を\(\dot{V}_M\)と同じ向きにとった。主座が両所ともU-W間なので二つは同一直線上にあり、向きは同じか逆かのどちらかしかない。逆向きであれば\(\dot{V}_{tm}\)は\(30\angle 45^\circ\)となり位相差は45°になる。工事誌の最大位相差135°は、同じ向きの場合に当たる。
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| 図6 (a)一次側の接続、(b)白山基地の二次、(c)突合せの位相差 |
T座の向きを−90°にとっても(相回転の取り方)、\(\dot{V}_{tm}\)は−135°となるだけで位相差の大きさは135°のまま変わらない。
4.4 スコット角45°は位相を作るための角ではない
45°は力率1の負荷で三相側の電流を平衡させるために決まる角であり、位相差を作る目的で選ばれたものではない。135°はその結果として生じる。
5.位相差から電位差を求める
大きさ\(V_1\)、\(V_2\)、位相差\(\delta\)の二つの電圧の差は、余弦定理から
$$V_s = \left|\dot{V}_1 - \dot{V}_2\right| = \sqrt{V_1^2 + V_2^2 - 2V_1V_2\cos\delta}$$
\(V_1 = V_2 = V\)のとき、\(1-\cos\delta = 2\sin^2(\delta/2)\)を使って
$$V_s = V\sqrt{2\left(1-\cos\delta\right)} = 2V\sin\frac{\delta}{2}$$
変電所直下(M座対T座、\(\delta = 90^\circ\))
$$V_s = 2 \times 30 \times \sin 45^\circ = 30\sqrt{2} \fallingdotseq 42.4\ \mathrm{kV}$$
白山の回送線(\(\delta = 135^\circ\))
$$V_s = 2 \times 30 \times \sin 67.5^\circ = 30\sqrt{2+\sqrt{2}} \fallingdotseq 55.4\ \mathrm{kV}$$
工事誌の記述は約56kV、30kV同士での計算値は55.4kVである。
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| 図7 位相差90°と135°の電位差ベクトル |
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| 図8 位相差と電位差の曲線 |
6.波形で見る
$$v_1 = 30\sqrt{2}\sin\omega t,\qquad v_2 = 30\sqrt{2}\sin\left(\omega t - 135^\circ\right)$$
\(\sin A - \sin B = 2\cos\dfrac{A+B}{2}\sin\dfrac{A-B}{2}\)より
$$v_1 - v_2 = 2 \times 30\sqrt{2}\,\sin 67.5^\circ \cos\left(\omega t - 67.5^\circ\right)$$
差の波高値は約78.4kV、実効値は55.4kVとなり、第5節と一致する。
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| 図9 \(v_1\)、\(v_2\)、\(v_1 - v_2\)の波形 |
7.「座が違うのだから135°は当然」ではない
M座とT座の違いが与えるのは90°までである。残る45°は、基地の不等辺スコット結線変圧器がM座・T座を直列にした斜辺から出力し、t端子をトロリ線に引き出していることから来る。
では、基地が新白山のT座と突き合っていたらどうなるか。新白山T座のトロリ線電圧は、基地のo-t巻線と同じ向きである。
$$\dot{V}_T = 30\angle 90^\circ\ \mathrm{kV},\qquad \delta = 135^\circ - 90^\circ = 45^\circ$$
$$V_s = 2 \times 30 \times \sin 22.5^\circ = 30\sqrt{2-\sqrt{2}} \fallingdotseq 23.0\ \mathrm{kV}$$
この45°はスコット角そのものである。スコット角はT座の電圧と斜辺の電圧のなす角であり、新白山T座の電圧は基地のo-t巻線と同じ向きだからである(図6(c)の破線が新白山T座)。異相なので切替開閉器は要るが、23.0kVは変電所直下のM座対T座の42.4kVより小さく、極間電圧42kVの標準品で足りる。
t端子の引き出しはどの変電所でも統一されているので、基地の出力の向きは変えられない。
変わるのは突き合う相手の座だけで、M座なら135°、T座なら45°となる。白山で60kVの高耐圧型が必要になったのは、基地と向き合うのが新白山のM座だからである。
8.三相側の位相差と単相側の位相差は別の量である
白山は三相側(受電部)の位相差が0°でありながら、単相側(突合せ部)は135°に開く。三相側が同相であることは、単相側が同相であることを保証しない。
9.まとめ
新白山変電所と白山基地変電所は、同じ154kV送電線からT分岐で受電し、受電の相の割当も主座・T座の接続も同じである。三相側に位相差はない。
それでも、基地の不等辺スコット結線変圧器はM座・T座を直列にした斜辺から出力し、t端子をトロリ線、m端子を中性線に接続するので、その出力はM座の方向から見て90°+45°=135°の位置に立つ。基地と向き合うのは、金沢開業時の片座き電の頃から新白山のM座であり、敦賀延伸で回送線が複線となって切替開閉器が2か所になっても変わらない。こうして回送線の突合せには、工事誌の記述で最大位相差135°、電位差約56kV(30kV同士の計算で55.4kV)が現れる。
変電所直下のM座対T座の突合せは90°で、電位差は42.4kVである。これに対し白山の回送線はそれより深い135°を切り替えるので、極間電圧42kVの標準品ではなく60kVの高耐圧型の切替開閉器が、延伸後の2か所とも使われている。同一電源であることは、単相側の突合せが同相であることを意味しない。
参考資料
鉄道建設・運輸施設整備支援機構鉄道建設本部東京支社 編;北陸新幹線電気工事誌:2016.3
鉄道建設・運輸施設整備支援機構鉄道建設本部大阪支社 編;北陸新幹線工事誌(津端・金沢)2017.3