目次と免責事項

2024年6月11日

1363. JR東日本 回生失効抑制対策にき電電圧低下で対応??

走行列車の回生電力のエネルギーを有効利用します   JR東日本発表 2024/05/08発表

一部引用

 今後は、き電電圧低減による回生電力有効利用について首都圏線区を中心に拡大を検討します。また、列車の運行本数は、ラッシュ時間帯とそれ以外の時間帯で大きく変化します。そのため、時間帯別にき電電圧を調整することで、さらなる回生電力の有効利用につなげられることが期待されます。走行する列車本数などの負荷に応じて自動でき電電圧を調整できる変電所設備の導入検討や車両と変電所で取得できる各種データを分析することで、ゼロカーボン・チャレンジへの貢献やエネルギーコスト抑制につなげていきます。 

引用終わり(下線はブログ主強調)

>時間帯別にき電電圧を調整することで、さらなる回生電力の有効利用につなげられること>が期待されます。

この部分に反応

対応する線区は以下の通り 関係する変電所と供給元を記載

赤羽-南与野駅間  
赤羽変電所(東北本線・京浜東北線と共用)-戸田変電所-南与野変電所 自営送電線
赤羽変電所は蕨交流変電所、戸田変電所、南与野変電所は戸田開閉所経由蕨交流変電所もしくは武蔵境交流変電所

西大井‐新川崎駅間 
品川変電所(山手線と共用)-馬込変電所-市の坪変電所 自営送電線
品川変電所は大井交流変電所経由(新鶴見交流変電所)大井交流変電所で66㎸降圧22㎸、馬込、市の坪変電所は大井交流変電所経由(新鶴見交流変電所)66㎸

平間-府中本町駅間 
向河原変電所-武蔵溝の口変電所-中野島変電所-府中本町変電所 TEPCO送電線66㎸

小机-八王子駅間  
小机変電所-高津変電所-町田変電所-橋本変電所-八王子変電所(中央線と共用) 自営送電線
町田変電所まで新鶴見交流変電所電源66㎸、橋本変電所は武蔵境交流変電所電源66㎸

 整流用変圧器の二次側電圧はタップ切替が付いておらず無負荷時の電圧は1180~1200V決め打ち。 通常は一次側は66㎸、33㎸、22㎸を選択。

 整流方法は、二重ブリッジ(12相直列・並列)が多く取り入れられており最近は6相整流器は少ない。(変圧器出力電圧=定格直流電圧×π/3√2)

昭和62年4月以降のき電電圧は法律上は定めれていない自主規制状態になっている。
JR東日本では社内規定で最低1,100V、最高1,650Vになっている。

整流用変圧器一次側タップ切替によるき電電圧低下

 手っ取り早い方法は、整流用変圧器の1次側電圧をタップ切替で変化させる方法だが、通常の整流用変圧器は、切替タップは一次側の変圧器内部にあり加圧状態でのタップ切替はできない。(加圧状態でのタップ切替は変圧器内接点にアークが発生する)

 整流用変圧器のタップ切替はどれも一次側で切り替える。なぜなら二次側での電流が大きくなるのでタップ切替に大電流対応の機構を備えなけれなならないから。一次側タップ切替は高電圧側に切り替える。二次側は巻き線比で電圧が下がる。



変圧器上部に無電圧タップ切替器が付いている例



古い整流用変圧器

資料より引用  一次側タップ切替例

 整流用変圧器は修理・事故等の対応のため通常2台並列接続されている。1台目を停電作業でタップ切替、その間は2台目で通常き電。タップ切替が終了したら二次電圧が低下した変圧器でき電開始。また時間帯別に き電電圧調整するような細かな作業は自動ではできないはず。電力課員が変電所に張りつき対応せざるを得ない。変圧器タップノブを手動で廻して切り替え。

 この「時間帯別にき電電圧を調整することで、さらなる回生電力の有効利用につなげられることが期待されます。」とあるが整流用変圧器2バンクがある変圧器のうち1バンクをタップ切替を常時タップ切替(高電圧側)にしておき 時間帯別にバンクを変更して対応する方法ならば停電タップ切替に電力課員に張りつきは必要なくなる。多分この方法で時間帯別にバンク切替を行うだろうと思う。

き電電圧変更による回生電力検証試験 JR東日本発表 2022年

タップ切替の実際 資料より引用
 
小机、町田変電所は新鶴見交流変電所が電源、橋本、八王子変電所は武蔵境交流変電所が電源(すべて自営電源から供給)

 回生車の登場前は、変電所送り出し電圧は省エネのため高めに設定されていたが、回生車登場ににより回生失効の観点、ブレーキシュー摩耗量の観点から低めに設定されることが多くなった。

 既に国鉄時代に、このタップ切替の検討されている。国鉄大阪局で検討

但し 抵抗制御車での実施
この時の検討はき電電圧を下げて消費電力を引き下げるのが目的
契約電力が2.7%減少 非回生車の運用だが電力量は1.8%減少している 

交流変電所での操作(22㎸、66㎸送電線の電圧低下)特定の変電所だけの低下は出来ない 
現実的ではないが負荷状態でにタップ切替は、この方法しかない。

 もう一つの方法はLTC付(負荷時タップ切換装置・LTC:on-Load Tap Changer)の154㎸降圧66㎸ の送電用変圧器で一次側でLTCタップ切替を行い二次側の母線電圧を下げる方法。これならば加圧状態でのタップ切替ができる。しかしその66㎸母線が繋がっている周辺の直流変電所すべてが二次電圧低下となってしまう。特定の変電所だけの低下はできない。また66kV (22kV)から降圧して6.6㎸の高配の電圧も下がってしまう。
(LTC付送変が設備 武蔵境交流変電所、蕨交流変電所、浜松町交流変電所、岡部交流変電所)

 66㎸降圧22㎸変電所でもLTC付送変が首都圏で採用されている。大井町交流変電所、神田交直変電所、王子交流変電所、小岩交流変電所

 武蔵境交流変電所には静止形無効電力調整装置STATCOMが供えられていて自動で66㎸ の母線電圧を調整しているので、STATCOMの設定値を変更 他の交流変電所のLTC付変圧器と協調運転をさせて66㎸電圧を低下させることはできる。但し特定の変電所だけの低下は出来ない。

き電電圧抑制にはそのほか色々な方式が取られている

 「走行する列車本数などの負荷に応じて自動でき電電圧を調整できる変電所設備の導入検討」とあるがつくばEXに導入されているPMN型変成設備を導入するとなると費用も高額になる。(つくばEXは直流区間は全てPMN型変成設備を導入しているのでエア―セクションの標識がJRのような羅列されていなく一つ表示されているだけである)

 き電電圧上昇の方策としてサイリスタ整流素子を利用した方策が、越後線 小島谷変電所、礼拝変電所に設けられている。この方式の逆手法で、最初からき電電電圧を下げてサイリスタ整流器で上載せ分を調整すればき電電圧を調整できる。但し整流用変圧器とは別にサイリスタ整流用変圧器を直列に繋げる必要があり、設備投資が必要

807. JR東日本 小島谷変電所 越後線

  鉄道総合技術研究所での成果 整流用変圧器に可変リアクトルを直列挿入する。(挿入はサイリスタダイオードで制御)

19. 可変リアクトルによる直流き電電圧制御手法

可変リアクトルによる直流き電電圧制御

JR西日本で実用化 草津線 甲賀変電所に設置

変電所の電圧制御試験の実施について ~輸送品質の向上とさらなる省エネルギーをめざして~ JR西日本

 回生失効対策には、このほかインバーターで逆変換方式、抵抗消費形や電力貯蔵形があるがここでは触れない。 

 調査をしてる過程で上越線水上-石打間の変電所 湯沢変電所と水上変電所に一時的に回生電力の抵抗消費装置が設けられていたことが判明したので紹介する。

 上越線では上越国境の清水トンネルを頂点に勾配が続いている。電化当初は回転変流器が変電所に備え付けれていたので電力回生ブレーキの使用は問題なく運用されていた。その後シリコン整流器に交換された際に、つるべ運転方式のダイアが組まれいたが保安上 回生電力消費抵抗装置が設備された。今はもうない。

 Rの抵抗値は21.38Ωを6個並列したもを20個直列接続したもの(放熱のため分散)
合成抵抗は71.2Ω。サイリスタオン電圧は1,750V 定格1,500V 200A 
実運用時間 平均210秒/日 一日で18kWhの電力消費

 一番簡単な方法は、JR東日本が忌避している上下一括き電、上下タイき電を導入すれば変電所設備をいじらなくとも簡単に回生電力の有効利用ができる。既に大手私鉄(東急電鉄、小田急電鉄、東武鉄道等)、JR西日本では導入を行い それなりの効果が検証されているのに「なぜ」JR東日本の直流線区だけは導入されないのか(新幹線、在来線交流区間ではタイき電が既に導入されている)

1228. 直流き電方式 上下線別分割き電、上下線一括き電、上下線タイき電の定義と運用

 国鉄では昭和60年11,12月の2か月間で国立付近で上下タイき電の検証を行ったが線区の選択場所であまり有効な結果は得られてない。理由は立川変電所でのタップ切替が高電圧側で試験しているためと通過する電車数が多いため

国分寺変電所で約3%削減 立川変電所で2%削減 立川変電所でタップ切替(高電圧側)

国分寺変電所で約3%削減 立川変電所で3%削減 

 シミュレーションの結果ではあるが京浜東北線とよく引用される横浜線での電圧制御結果は以下の通り(省エネルギーのための直流変電所の電圧制御から引用)

京浜東北線 対費用効果がある上下一括き電が健闘している
定電圧き電はPMN型変成設備を示す

横浜線 対費用効果がある上下一括き電が健闘している 

 上下タイき電、上下一括き電の不利な点は、片線停電時の上下線ともに停電することであるがJR東日本の運用では方面別き電で事故の場合 防護のため上下線停電を行うことが常であるので問題にならないと判断する。

 私見としては、上下タイき電、上下一括き電の閑散区への導入、勾配路線への導入が対費用効果が一番良い方法と判断する。高抵抗地絡等の問題はタイき電、上下一括き電区間に地絡検出用の連携線を張り、き電保護パックで範囲を区切って地絡検出。変電所のき電を止める。

 直流高速度遮断器を直流高速度真空遮断器に交換 遮断時間の短縮と遮断容量を増加させる。

 昔の整流ポスト時代では直流高速度遮断器を省略して交流側遮断器52を使い直流を遮断していたが、短絡等による事故電流に対してシリコン整流器が十分な短絡電流耐力を持つことが可能になったことと交流側遮断器の遮断時間が短くなったことから直流高速度遮断器を省略して単なる断路器にして設備投資金額を抑える。き電遮断は交流側遮断器で行う。

 JR西日本を含め私鉄各社で行っている上下一括き電、タイき電で回生電力の削減が実際行われているのに対してJR東日本のエネルギー削減には一言も触れられていないのが不思議でならない。(鉄道と電気技術誌で「鉄道事業者の変電設備」が連載されているので各社の状況は把握できる)


余談

但しき電電圧低下に伴う副作用も考えなくてはいけない。例えば変電所脱落時の運転方式

 ノッチを2ノッチ制限運転で運転再開の運用が見直されて2017年から運用しているが、変電所方送り出し電圧が低ければ、さらに本数制限の運転制限がかかる。タップを元に戻せば運行は可能となるが自動ではできない。

変電所脱落時の2ノッチ制限運転区間
横浜線、東北本線(埼京線)東海道本線(横須賀線)がもろにき電電圧低下区間に入る
    (首都圏直流電化区間の変電所異常時の運転再開方法の見直しから引用)

 変電所のき電区分所化による電力量削減

 一部の線区では変電所を廃止(停止)き電区分所化により電力量の削減の検討も行っている。この場合でも両端の変電所送り出し電圧が低ければ運行が制限される。今回の検討とは逆にシミュレーションで変電所の送出し電圧をタップ切替で上昇させている。

 シミュレーション結果と実測値に乖離がみられており実車走行試験の際はシミュレーション結果の方がパンタ点電圧が低い結果(1,100V)を割り込むが得られている。大きな要因は両端の変電所外からの電力の流入が考慮されていない。変電所の母線は並列き電で隣接の変電所と繋がっているのが乖離の一つの要因となっている。

シミュレーションで隣接変電所の整流用変圧器タップを低電圧側に切替
実車運転時はタップを切替なくとも1,300V弱を維持


参考資料(順不同)

電気学会技術報告書 回生車を含むき電システムの現状とあり方 1989年 
NDLでの図書館・個人送信サービスで内容が読める https://dl.ndl.go.jp/pid/2381995

廣瀬寛ら;運動エネルギーの定量化:JR EAST Technical Review No.40,pp.29-32、2012

 運動エネルギーの定量化 変電所の母線電圧低下による回生エネルギーの活用
            橋本変電所母線を経由して相模線の回生電力が横浜線へ流入
            (橋本変電所の母線送り出し電圧が低いため)

小川知行ら;変電所と車両の同時電力測定による回生電力融通状態の分析:電気学会研究会資料 2016(20-37):2016.5.19 
学園都市線(上下タイき電・タイポスト)で検討
 変電所送り出し電圧の見直しで回生電力の融通の拡大と列車本数の少ない勾配の多い区間から列車本数の多い区間への回生電力融通を確認 前項の運動エネルギーの定量化同様な結果

杉本健;省エネルギーのための直流変電所の電圧制御:電気学会論文誌D(産業応用部門誌)Vol. 115, No.8, pp.1054-1063, 1995

持永芳文;直流電気鉄道き電用変電所の技術動向:電気設備学会誌 Vol.25,No.4,pp.232-236,2005

近江正太郎ら;JR東日本自営送電系統への静止形調相機の導入について:電気学会研究会資料 2013(54-77):2013.11.15 STATCOMの概要

岡健一郎ら;首都圏直流電化区間の変電所異常時の運転再開方法の見直し:鉄道と電気技術Vol.30,No.4,pp.35-41,2019

植松紘也ら;武蔵野線東浦和変電所のき電区分所化に向けた検討:電気学会研究会資料 2022(42-64):2022.5.12