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2019年9月22日

911. 東北巡検その六 JR東日本 大曲き電区分所(ATき電)

大曲き電区分所

#き電区分所、#SP、#単巻き変圧器、#AT、#き電、#AC、#セクションインシュレーター、#デッドセクション、HMCR装置






アプローチ:大曲駅 容易
き電区分:秋田新幹線(田沢湖線)、奥羽本線
奥羽本線電化時からのき電区分所、田沢湖線電化を見越して余裕のある設計

大曲駅構内は、き電系統が院内系と田沢湖系が同居するため架線等に注意書きがある

通常時:奥羽本線 院内SSと秋田SSの突合せ、
秋田新幹線(田沢湖線) 田沢湖SSと秋田SSの突合せ

非通常時(秋田SS脱落)
奥羽本線 院内SSと田沢湖SSの突合せ、
秋田新幹線(田沢湖線) 大曲SPスルー化 秋田泉き電区分所まで

ATは4台 奥羽本線 院内方、秋田新幹線(田沢湖線) 田沢湖方で2台
奥羽本線 秋田方、秋田新幹線 秋田方で2台

 通常のSPは上下線で延長き電ができるようにATは系統に平行に設備される。ところが大曲き電区分所は、片方の系統が院内SS、田沢湖SSなので直列にATが設備されている。




通常のき電区分所(在来線)の結線図(大曲SPは違う) 文献より引用一部改変
ATが上下線に平行に設備され、タイき電(FT)、延長き電(FCL)が可能な配置
秋田新幹線の運行を行う場合 新幹線車両に大電力が必要ため、大曲・田沢湖駅間にあった、田沢湖補助き電区分所を廃止し田沢湖ATP(Auto-transformer Post)に設備替えし、そして東北電力の154kV送電線 羽中線0533 1回線が秋田新幹線(田沢湖線)を横切る部分に田沢湖SSを設け専用送電線0544を分岐して受電することになった。
(院内SS~大曲間、および盛岡SS~大曲SP間の電圧降下が大きいことが事前検討で判明した)

 秋田SS脱落時 田沢湖SSからのき電延長の際に秋田駅構内の架線電圧が低下することがさらに判明したので、大曲SPに静止型無効電力補償装置を導入する共に秋田駅構内き電を田沢湖SSからの延長き電(秋田SS脱落時)ができるように秋田SSの設備を改良し、さらに秋田泉SPを設けた。 この項 秋田泉き電区分所参照

最低電圧計算結果 
定位は大曲SP、盛岡SSでの電圧 反位は田沢湖SSでの電圧 延長 秋田泉及び田沢湖SSでの電圧
この結果から大曲SPに静止型無効電力補償装置を設置することが必要と判断された
在来線 電車線電圧変動範囲は電気工作物設計施工標準より22,000~17,000Vに定められている。最低電圧として16,000Vとして判定している。
静止型無効電力補償装置の容量と設置場所 秋田SSの田沢湖SSまでの延長も考慮


 非通常時の秋田SS脱落の場合、き電中間にあたるため、静止型無効電力補償装置が設置されて架線電圧の安定化を行う。また通常時は、秋田SS末端の電圧確保のため静止型無効電力補償装置は秋田方に繋がる。

 大曲駅から奥羽本線(NG)秋田新幹線(SG)の各単線運転が平行に秋田駅まで続く。き電系は同一電源だが分離されており、途中の三軌道部分は、渡り線にエアーセクションがある。
秋田新幹線は、秋田駅が終点となり秋田駅から追分駅までは、奥羽本線が複線で続く。

静止型無効電力補償装置は、サイリスタの開閉によるコンデンサ投入型(TSC方式)

奥羽本線電化当時の変電所とき電区分所、補助き電区分所の配置
羽前千歳SSから秋田SSまでAT電化204㎞
凡そ100㎞毎に変電所 凡そ16~20㎞毎にATが設備
今回 院内SSも取材したので羽前千歳SSから秋田SS間の変電所クリア
秋田新幹線開業時は、大曲~秋田間にさらにATP(単巻変圧器ポスト)を割り入れ
秋田新幹線開業時 奥羽本線 大曲から秋田間 ATPを割り入れ



大曲駅構内のき電区分

大曲駅構内は、院内SS系の在来線と田沢湖SS系の秋田新幹線が同居する

架線を区分 在来線と新幹線は、この部分では、相いれない。

在来線 院内SS系

秋田新幹線(田沢湖線) 田沢湖SS系

秋田新幹線 加圧ビーム 上を通過するのは院内SSのAF(き電線)

奥羽本線 院内方 加圧ビーム

田沢湖SS系加圧ビーム上を通過する院内SS系AF(き電線)

架線も相いれないが、引き止めの関係で同居
大曲駅構内 三条軌道部分 架線無し

大曲き電区分所の詳細




院内SS系のAFは、ここで架線柱を移動 秋田に向かって左へ


田沢湖SS系のAF(き電線)がここで方向転換 大曲SPへ向かう
下の線路は、秋田新幹線(田沢湖線) 

別角度 田沢湖SS系 AFが方向転換 奥 大曲駅 手前右 秋田方
田沢湖SS系 AF,TF が大曲SPへ引き込まれる

院内SS系 AF,TF が大曲SPへ引き込まれる

右 院内SS系 AF,TF 左 田沢湖SS系 AF,TFが大曲SPへ引き込まれる

HMCR装置(高調波共振抑制装置 ・higher harmonic resonance suppressor with CR equipment) ) AF,TF分4台が設備
院内SS系 田沢湖SS系の4台分 
秋田新幹線は1997年当時PWM制御のVVVFインバーター+誘導電動機の新型車両が投入された。この新型車両の高調波は、従来車両より低次高調波が少ないがPWM制御方式のキャリア周波数に基ずく高次高調波が発生する。
 秋田新幹線は、ATき電方式であるため、そして変電所間隔が長いため、電源の誘導リアクタンスと電車線路の容量リアクタンスによる共振周波数が低く、高次高調波電流がき電回路の共振周波数に近く多い場合、共振を起こす恐れがあった。
 そのため長い線区の盛岡-大曲間の特性インピーダンスから赤渕SSPと大曲SPに共振周波数を低次へ移行させるHMCR装置(フィルター)を設けた。


HMCR装置 左コンデンサと抵抗と 右リアクトル
中心 抵抗



CR装置=HMCR装置




抵抗部分 コイル状抵抗器が見える 放熱対策 絶縁架台上に抵抗器が積み重なる


ここからは、下の系統図と対比すると判りやすい
大曲SPから羽後境SSPを経て秋田SSまでのき電系統図(田沢湖SSからの延長き電時)
秋田SS脱落で406ZBを介して400Zを経由秋田泉SPまでき電
T はタイき電用遮断器を表す Bは断路器、Zは母線
451は院内系、459は田沢湖系、
453,415は、在来線秋田系 454,416系は、新幹線秋田系
羽後境の補助き電区分所は、タイき電の遮断器を設備
詳細は、秋田変電所の項参照



院内SS系ATと田沢湖SS系ATが並ぶ
手前 院内SS系 奥 田沢湖SS系 左断路器は開放 SPはき電区分所として機能
この左に大曲SPの院内、田沢湖タイ母線がある。

451遮断器は、院内SS系 459遮断器は、田沢湖SS系
右 断路器は、開放
さらに右には、ATが2台ある 先の画像
上部に大曲SPの院内、田沢湖タイ母線がある
院内SSと田沢湖SSは、電源系が違うので451,459の前にAT直後のタイき電の遮断器は、設備されていない

秋田方上下 こちらにもHMCR装置4台 ATが見える
院内・田沢湖系と違うところは、450Tタイき電用遮断器がある


秋田系上下 ATは右奥に隠れている 左 454遮断器 秋田新幹線その後ろ453遮断器 在来線
450Tは秋田方上下のタイき電用遮断器 秋田SS同一電源のため
454,453遮断器の上は秋田方タイ母線

秋田側タイ母線から左 院内・田沢湖タイ母線へ  左にき電線(AF,TF)が延びる

ちょうどこの赤の部分に上下の画像は相当する


院内・田沢湖側タイ母線 右にき電線(AF,TF)が延びる
手前は、交換を待つGP装置 ATき電には付き物
正面 490遮断器 静止型無効電力補償装置へ向かう大曲SP所内母線
この490遮断器は、耐圧が高いようだ碍管が大きい 

左から453遮断器 秋田方在来線、454 秋田方 秋田新幹線 一番右490遮断器 静止型無効電力補償装置へ

中央下 静止型無効電力補償装置=SVC へのトロリ線電圧(TF)を測定するSVCPT(計器用変圧器)
TF側に繋がる ここでコンデンサバンク切替の情報(電圧)を見ている

中央下 静止型無効電力補償装置=SVC へのトロリ線電圧(TF)を測定するSVCPT(計器用変圧器) 別角度
もう一旦は、GP装置を通じてアース側に繋がる

判りやすい回路図があったので記載 T(トロリ線)とR(レール)間の電圧を測定
バンク切替を実施



静止型無効電力補償装置(SVC) 手前キュービクルは、サイリスタ、真ん中 コンデンサバンク

サイリスタは油冷のため 冷却装置 サイリスタ4台を冷却

別角度

静止型無効電力補償装置(SVC,TSC方式・Thyristor Switched Capacitor) 
左 変圧器 中心 コンデンサ 右 サイリスタ 一番右 油冷冷却装置

大曲SPの静止型無効電力補償装置(SVC,TSC方式・Thyristor Switched Capacitor) 回路構成
DSは断路器 GCBはガス遮断器
定格容量10MVA(5MVA×2) サイリスタの開閉によりコンデンサを投入する。制御は架線電圧値監視-V制御による段階的制御、投入制御は架線電圧18,200V以下で1バンク コンデンサ投入1バンク投入状態で再度架線電圧18,200V以下となった場合2バンク目投入。開放制御は架線電圧20,600V以上で段階的にバンク開放

但し、2016年再度検討したところ、上記の運用で臨時列車の運行時 秋田変電所脱落時に秋田泉き電区分所の最低電圧が16,000Vと電圧変動範囲下限値を割り込んでいることが判明、現行の大曲き電区分所のSVC投入整定値18,200Vでは、大曲き電区分所以遠に負荷が集中場合の電圧降下が大きいことが課題として明らかになり、SVC投入電圧を19,000V開放電圧を21,000Vとすることが提言されている。


運用
 定常き電系(秋田SS末端)で秋田SS 416,415系の末端電圧安定化、非通常時(大曲SPスルー・田沢湖SS延長・秋田泉SP末端)は中間での電圧安定化を行う。

TSC方式の静止型無効電力補償装置は、大曲SPのほか羽前千歳SS等に設備されている


羽前千歳変電所に設置された無効電力補償装置の方式 サイリスタ方式




 羽前千歳SSのTSC方式 左 高インピーダンス変圧器 隣 コンデンサ 右サイリスタスイッチ群 SVC装置 全景
大曲より規模が小さいが同じ構成



秋田方上下 デッドセクションに向かう 右にデッドセクション


デッドセクションに向かう秋田新幹線方416き電線(AF,TF)

デッドセクションに向かう奥羽本線方415き電線(AF,TF)

左 在来線 右 新幹線 デットセクション 単線運転のため両方向にセクション標識がある
両TFが秋田側トロリ線に繋がる
左 院内SS系 右 田沢湖SS系 奥 左右秋田SS系

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参考文献(順不同)
き電変電シリーズ 変電所一般:日本鉄道電気技術協会編
清水俊孝;ATき電方式における延長き電時の電圧降下及び無効電力補償装置に関する研究
:電気学会研究会資料:LD-16-15,TER-16-49,pp.63-66,2016
石塚紘明;奥羽本線羽前千歳--秋田間電化開業:鉄道ピクトリアル,Vol.26,No.1,pp.40-43,1976
渡辺 信行;静止型無効電力補償装置(SVC)の有効性について:電気学会研究会資料,LD-16-58,TER-16-15,pp.73-78,2016
井上一ら;秋田新幹線における電圧降下対策用SVCの効果確認試験結果:電気学会産業応用部門大会講演論文集:pp.65-66,1996
稲村正博;秋田新幹線 電力設備と工事の概要:鉄道と電気,Vol.8No.3,pp16-20,1997
井上一ら;秋田新幹線のき電システム:電気学会産業応用部門大会講演論文集,pp.57-60,1996
井上敬司ら;JR九州における130㎞/h高速化:鉄道と電気技術,Vol.8,No.4,pp.72-76,1997