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2024年8月8日

1383. 伊豆箱根鉄道 超電導き電ケーブルと大仁変電所再訪・その他

 超電導き電システムによる世界初の営業線運用検証を始めます 鉄道総合技術研究所

伊豆箱根鉄道の営業列車で“世界初”の超電導送電、人手不足対策にもなる理由日経クロステック

以下日経クロステック記事一部引用

 富田氏は説明会で、駿豆線に3カ所ある変電所(三島、原木、大仁)のうち「例えばの話だが、中間にある原木変電所の削減が考えられる」と解説した(図2)。単純に原木変電所を削減するだけでは、その付近は他の変電所から遠いため、電車に十分な電圧で電力を供給できない。しかし三島または大仁変電所から原木変電所の場所まで超電導ケーブルを敷設し、その末端を架線に接続すれば、原木変電所が存在するのと同じ電圧を保てる。変電所の容量の調整は必要になるが、変電所の数が減ればメンテナンスの手間を削減でき、要員不足への対策になる。(鉄道総研浮上式鉄道技術研究部長兼超電導・低温研究室長の富田 優氏)

引用終わり

 富田氏の話では例として挙げた原木変電所だが、設備更新したばかりなので伊豆箱根鉄道が削減することは考えられない。

902. 伊豆箱根鉄道 原木変電所新設 異聞

994. 伊豆箱根鉄道 原木変電所(直流) 駿豆線

原木変電所の絶妙な位置

大仁変電所⇔旧横山変電所⇔三島変電所間の旧横山変電所位置は供給範囲が歪(大仁変電所寄り)だった。理由は66㎸送電線が線路を横切っていたため適地であった。
 三島⇔大仁変電所間の大体の中間地点が原木駅に該当。また丁度、この部分にTEPCO韮山変電所(配電用)がある。韮山、伊豆長岡駅には、空地(市街地該当)がないが、原木駅構内に空地(側線撤去跡)があるので選択された模様。

 変電所新設の場合 電磁波公害、騒音等で中々場所の選択と住人説明が大変であるが原木変電所付近に人家はない。

 伊豆箱根鉄道は令和3年(2021年)の鉄道統計で5カ所の変電所を持っている。大雄山線で2ケ所、駿豆線で3ケ所 ところが有価証券報告書の2020~2023度版では大雄山線で3ケ所、駿豆線で3ケ所となっている。昔 大雄山線の相模沼田駅に600V時代に変電所があったが有価証券報告書からまだ消されていないようだ。 

駿豆線の変電所容量(再度確認した)
すべてS定格 連続負荷100% 2時間負荷150% 1分負荷400%(変圧器・整流器共)
大仁変電所 1,500kW 1,000A
原木変電所 2,000kW 1,333A
三島変電所 2,000kW 1,333A
となる。

三島駅からの連絡線 現状 
 踊り子号修善寺行きは三島駅1番線(JR東海)から発車、途中2つのセクションインシュレーターを通過するが2つ目のセクションインシュレーターがき電区分となっている。    三島駅構内1番線 1,700V 側線 1,700V 駿豆線内 1,500Vと電圧が変化している。
JR東海 三島駅1番線停車中 E257系 パンタ点電圧1,700V

駿豆線内 三島田町駅停車中 E257パンタ点電圧1,500V

駿豆線内 三島田町駅出発時 E257パンタ点電圧1,400V


駿豆線連絡線への1番目セクション パンタ摺板接触タイプ

駿豆線入口 2番目セクション パンタ摺板完全区分型

側線(電留線)が一部線路の撤去が進んでいる
 2つのセクション間は下記に述べる断路器47で加圧されているので断路器「開」にすると無加圧となる

過去は側線(電留線)には線路があった

右 2本が下り本線から分岐した側線(電留線)下り本線とは個別き電
以下に記載している47 断路器で加圧

三島駅 東京方にある断路器設備
左より52 上り方き電線断路器「閉路」、42 上り方構内線断路器「閉路」 
45 上下構内線用ジャンバ断路器「開路」
43 下り方構内線断路器「閉路」 51下り方き電線断路器「閉路」 
47 駿豆線・電留専用断路器(下り方き電線から分岐加圧)「閉路」

 三島駅1番線(JR東海)から発車、途中2つのセクションを通過するが2つ目のセクションが駿豆線とのき電区分となっている。三島駅構内1番線 1,650V 側線 1,700V 駿豆線 1,500Vと電圧が変化している。


 三島駅からE257系 修善寺駅行きに乗車して回生ブレーキの状況を確認したが電圧は回生失効手前のパンタ点電圧1800Vまで上昇しているので、回生電力吸収は確実に行われていない。

回生ブレーキ使用中 パンタ点電圧は1,800Vまで上昇
 
 
修善寺駅 1日乗車券購入しているので反対側の1300系に乗車 大仁駅下車


修善寺駅から1300系 三島駅行きに乗車 パンタ点電圧は停車時1,550V 力行時1300V

修善寺駅停車時 パンタ点電圧1,550V


修善寺駅出発 力行400A


パンタ点電圧1,300Vまで低下


大仁駅から多分3000系に乗車
大仁駅停車時 パンタ点電圧1,500V

大仁駅発車時 力行400A

大仁駅発車時 パンタ点電圧1,400V

気が付いたこと
 修善寺駅⇔三島駅を往復して確認したが変電所直下のエア―セクションが無い。すべてTき電状態。区分標識が無い

 かつて横山変電所が存在していた際には横山変電所直下に駿豆線唯一のエア―セクションがあったがエアージョイント化されている。


  回生電力はき電線、トロリ線を通じて遠方の変電所・力行中の電車まで送られる状況にある。エア―セクションがエアージョイント化された理由はE257系対応のためかもしれない。(回生電力の遠方分散効率を高める)エア―セクションがあると一旦変電所内の母線経由となり、その分抵抗値が増す。エアージョイントならトロリ線、変電所内母線と2つの径路で電流が流れる。

超電導き電システムの実際

 では実際の超電導き電システムなるものがどのようなものか調査してきたので記す。今回の超電導き電ケーブルの冷却は循環冷却によるもので直接冷却方式をとっている。

 伊豆箱根鉄道は過去に大仁変電所で鉄道総合技術研究所と共同で実際に超電導き電ケーブルでの実車走行試験を行っている。この時の超電導き電ケーブル長は6mで浸漬冷却方式でポンプでの送液を使わず液体窒素を超電導き電ケーブルに充填して行っている。

608. 伊豆箱根鉄道 大仁変電所 駿豆線と超電導き電線試験設備跡 2015年実施

鉄道総合技術研究所では、日野実験場で400mの超電導き電ケーブルを敷設して実験を行ったが、この時は循環冷却によるもので間接冷却方式をとっている。そのため補助冷却用の槽があるため設備が大きい。




窒素の状態図
 沸点はSTPで77.3K(-195.8℃)圧力を高めていくと77.3K以上でも液体のままである
つまり約-196℃では沸騰状態となっているので若干の圧力を加えて液体状態を保たなければならない。また過冷却状態にすると圧力を加えなくても液体のままである。

 超電導き電ケーブルは少なくとも-195.8℃以下の温度に冷却しなければならない。温度が上昇して気泡が発生すると絶縁破壊を起こす可能性がある。

試験設備


鉄道総研の今回のシステム 資料から引用
✖が付いているスイッチが直流高速度遮断器

温度から察するとB側が送電端 A側が受電端となっている
B端 76K=-197.15℃ A端 77K=-196.15℃
沸点が77.3K=-195.8℃なので過冷却液体窒素が流れている 資料から引用


送電端 ケーブルヘッドが2個付けられるようになっている 改良型ケーブルヘッド
現在は1個 ケーブル1本で500A許容 2本なので1,000Aは流せる
 左奥にスターリング式冷凍機2台直列、冷凍機からの真空二重配管が正面奥のリザーバーポンプユニットに繋がる。リザーバーポンプユニットからの配管が右の流量計に繋がり超電導き電ケーブルの送電端に真空二重配管(トラテープが巻いてある)で送液と回収を行っている(吸込・吐出) 使われている超電導き電線は日野実験場で使われているものと同じタイプだと思う。ブルーシートで包まれた部分は制御盤、その横には、液体窒素を気体化させる小型加圧蒸発器が見える。この加圧蒸発器でリザーバーポンプユニット内を若干の加圧状態にしてる可能性がある。

大仁変電所の出力端が繋がる直流高速度遮断器収容キュービクル
動力式断路器、直流高速度遮断器が収容


流量計部 超電導き電ケーブル内筒と外筒間に過冷却液体窒素を流す

電源端子部 外気温33度前後と過冷却液体窒素温度沸点-197℃ 温度差約230℃
超電導き電線と銅ケーブルの接続点
銅ケーブルが接続される銅ブスバーは循環液体窒素で予備冷却されていることだろう
この電源端子の裏に過冷却液体窒素のリザーバーポンプユニットがある。
この部分の設計が難しい


送電点から引き出される超電導き電ケーブル

奥の受電点までの超電導き電ケーブルの長さが102m

長さ102mの超電導き電ケーブル 熱収縮でケーブルが動くため固定は緩い


超電導き電線 受電端


超電導き電線 受電端 ここからき電線が引き出される。


受電点 構造的には送電点と同じだが循環過冷却液体窒素の引出と引入れが無い
大気放出の際のサイレンサーがついている
左のブルーシートの中は真空ポンプが入っていると予想している

温度計、放出弁、安全弁 真空引きの配管が見える
改良型ケーブルヘッドが見える

動力式断路器盤に受電端からのケーブルが引き込まれる
動力式断路器を経てケーブルが引き出される


断路器盤から引き出されたき電線は左 断路器を経由 き電線に繋がる


既存き電線に添線を這わせた状態でクランプで固定 Tき電状態
1,000Aは流せる


既存き電線にTき電状態


LGC(Liquid Gas Container、ELF(エルフ)とも呼ばれる)が繋がれるフレキ管
外部からの液体窒素受け入れ口

液体窒素運搬用ボンベ 通称エルフと運搬用台車 
これでリザーバータンクに液体窒素(我々は「液チ」と読んでいる)を分注する
左にあるのは蒸発器(送受電端に合った物)


スターリング冷凍機の冷却に使うチラー


株式会社アイシンのスターリング式冷凍機と熱交換機
これが2台直列に繋がっている


過冷却液体窒素リザーバーポンプユニット



左が多分真空ポンプ 右が制御盤

超電導設備監視盤の表示灯が点灯してない。表示内容は直流高速度遮断器盤の内容と同じ


左奥 流量計からの真空二重配管が右2台のスターリング式冷凍機に直列に繋がり、さらに
リザーバーポンプユニットに入る。リザーバーポンプユニットからの真空二重配管が流量計に繋がる。流量計からは送出しと受入れの真空二重配管が送電端のタンクに繋がる

別角度 

別角度 この部分の最小化1.8㎡が今回の実験の肝

 冷却装置自体は運転をしていて超電導き電ケーブルを冷却している状態。過冷却液体窒素が系を循環している。

 直流高速度遮断器盤には電圧は印下されているが遮断器は「開路」状態 つまり超電導き電ケーブルには通電していない。

直流高速度遮断器盤の断路器54FXと遮断器89FXの表示灯が点灯していない
目盛り範囲が±500Aでの指示範囲


通電していれば500A程度の電流が流れるはず 資料より引用
―側に振れているのは、たぶんE257系の回生電力が変電所側に戻っているため
大仁11:03⇒修善寺11:08
大仁14:02⇒修善寺14:06
修善寺14:18⇒大仁14:22
修善寺15:39⇒大仁15:43
E257系修善寺号運行時間帯に-に振れている


 変電所からのき電線にクランプメーター 右 断路器「閉極」で直接Tき電状態。
左 断路器は超電導き電ケーブル 直流高速度遮断器盤に繋がるが「閉極」状態
 超電導き電ケーブルに通電するためには右 断路器を「開極」にして直流高速度遮断器盤の断路器、遮断器を「閉極」にしなければならない。 ケーブル2条なので1,000Aは流せる

別角度

手前 断路器が「閉極」で変電所からのき電電流は最短路で既存き電線にTき電されている

 この左 断路器からのケーブルが直流高速度遮断器盤を経て超電導き電ケーブルの送電端に繋がているので、その分のき電線の抵抗値と受電端からの断路器盤からき電線に繋がるケーブルの抵抗値が加算されるのでせっかく超電導き電ケーブル(抵抗値0Ω)を通しても送電ロスの削減にはつながらない。直で繋げたケーブルのほうが短いので抵抗値が低い状況。

 今回の検証は、冷凍機の小型化(約1.8m2のスペース)に設置できる小型化と循環式の過冷却液体窒素による超電導き電ケーブルの営業線での実地試験が目的なので日経クロステックの記事内容は誇大表示だと思う。実際に訪問した際は、冷却装置は運転していたが常時 超電導き電ケーブルには通電していない。

日経新聞記事2024年3月31日14時01分記事にある以下引用
【営業線運用検証の概要】
・期間 : 2024年3月13日から2024年度中を予定しています。
・箇所 : 伊豆箱根鉄道株式会社・駿豆線 大仁駅構内
・概要 : 超電導ケーブル(長さ102m)と冷凍機や冷媒を循環するポンプによる冷却システムを設置し、液体窒素(-196℃以下)を冷媒として超電導状態を維持し、本線で要求される3,000A以上の電流を電気抵抗ゼロで損失なく送電します。
 一日あたり上り方面67本、下り方面68本、合計135本の営業列車に電力を供給します。
引用終わり

 大仁変電所のシリコン整流器は1,500kW き電電圧1,500Vで1,000Aが定常負荷 S定格なので2時間負荷150%で1,500Aは流せるが常時3,000Aは流せない。多分 超電導き電ケーブルが日野実験場で使われたものと同じなので超電導き電ケーブルの許容量を指しているものと思われる。

其の他

 超電導き電ケーブルと並行に1本の大容量ケーブルが引かれていたこと
このケーブル 受電端から送電端まで伸びる

先端には網線と端子 1本で1,000Aは流せる

超電導き電ケーブルと並行の敷設

接続点は端子をボルト止め  絶縁が弱いので1,500V用ではないと思う

接続点は端子をボルト止め

送電端を迂回


送電端で終了

チラー、スターリング式冷凍機等 用三相200V受電

制御機器、測定器、監視カメラ用 単相3線100V受電

ケーブルヘッドの構造が同軸き電ケーブルの接続点のような2段絶縁方式

この2段重ねの部分が気になる

下段の部分
導体部PとシールドNがあるので同軸構造で き電電流と帰線電流を同時に流せる構造
EMC対策としては最適な構造 資料より引用
これを同軸き電ケーブルヘッドで引き出しているのではないかと思う
上段が1,500V用 下段のフランジが帰線用 

 先に述べた平行に敷設されているケーブルが下段フランジに繋がって帰線用も同時に流せる試験を行うのではないかと想像している。またはシールド層に漏れ出る電流を測定するのか?? 想像はつかない

同軸き電ケーブルの末端構造 これは新幹線25㎸用

電気区大仁詰所と読める


看板が読めるように塗り直されている
大仁変電所
 帰線の出所が判らなかったので調査

修善寺方にインピーダンスボンドと帰線

中性点に帰線が繋がる

変電所建屋から引き出される帰線 
三島に向かって右側のレールに直接ボンド


レール間をクロスボンド 三島に向かって右側

レール間をクロスボンド 三島に向かって左側

其の他
でも述べたが、現在き電線からのき電分岐装置が250m置きに設置されている。また帰線はレールを経由して変電所に戻るためレールの抵抗値も馬鹿にならない。

 超電導き電線を変電所引出口だけに敷設する今回の実証実験は、営業線のき電線を直接置き換えたわけでは無い。

鉄道総研の電力技術研究部(き電)の報告では以下引用
現行の超電導き電ケーブルの試験は、き電線のみに対応しているので(c)に該当
短絡時に電車電位1,500Vまでレール電位を上がてしまう



この図3が一番 超電導き電ケーブルの運用に適している

 電気車電流はき電分岐(き電、帰線)間ではトロリ線、レールを流れるがそれ以外の部分では超電導き電ケーブル(同軸型・き電・帰線)に流れる。そのため電気車が存在する部分だけが電圧降下、レール電位の影響を受ける。上記の例はき電距離5㎞ き電分岐間隔250m電気車電流4,000Aで設定した。その数値計算(シミュレーション)を以下に示す。

き電損失の減少が計算上行えている。

以上引用終わり

 結論として超電導き電ケーブルの実際の運用にはまだ時間が掛かる。日経クロステックの記事のよう内容は、現状ではまだほど遠い。ケーブルヘッドの熱対策、き電分岐装置の設置間隔、冷凍機の台数、超電導き電ケーブルが高価、保護技術が未解決等々 先は長い。
 それなら上下一括き電方式を採れば喫緊のエネルギーコスト削減は容易と考える。超電導き電ケーブルそもそもエントロピーが増大する方式なので窒素の液化・運搬もコストを考えたら長尺の超電導き電ケーブルはエネルギーロスは大きい。 
 超電導磁石の冷却が一番高温超電導体の利用に適していると思う。ドライアイスレベルでの高温超電導体が開発されれば再考の余地はある。


参考資料(順不同)
富田優;超電導ケーブル向け液体窒素循環冷却‐鉄道き電による実証まで-:低温工学,Vol.57,No.4,pp.236-240,2022

富田優;鉄道用超伝導ケーブルシステムの開発:低温工学,Vol.48,No.11,pp.562-568,2013

林屋 均ら;鉄道電力システムからの超電導技術への応用:第4回超電導応用研究会シンポジウム予稿:2013,JR東日本

上条 弘貴ら;超電導ケーブルのき電線への適応可能性に関する調査・検討:鉄道総研報告 Vol.24,No.1,pp.49-52,2010

国土交通省 エコレールラインプロジェクト推進会議2012/7/30 
鉄道用超電導ケーブルの開発 鉄道総合技術研究所 富田 優発表

鉄道総合技術研究所 主要な研究開発成果(2023年度)

鉄道総合技術研究所 プレスレリース

日本経済新聞 2024年3月31日11時21分記事

日本経済新聞 2024年3月31日14時01分記事
                           
日経クロステック 2024年6月24日