2022年6月11日

1228. 直流き電方式 上下線別分割き電、上下線一括き電、上下線タイき電の定義と運用

  当ブログの検索結果をGoogle Analysesで見ていたらタイき電、一括き電の検索が多かったので記事をUpした。(手持ちの文献があったので、とりあえずUp)

 JR東日本は、現在上下線別分割き電で一部上下線タイき電を行っている。過去に国分寺付近で技研が上下線一括き電の実験を行ったが運用は、されていない。きっと桜木町事故のトラウマがあるためであろう。回生電力の吸収は、蓄電池での吸収が主であるが、効率的な電力貯蔵装置の運転方法が確立されていない。内房線で列車位置(GPS)での電力貯蔵装置の検討が行われていたが、はっきりしない結果で終わっている。桶川、拝島、久喜にも電力貯蔵装置があるが運転方法の確立はできていない。

750. JR東日本 内房線 直直デッドセクションはあるか 大貫変電所 回生電力貯蔵装置の実態

 JR西日本は、JR東日本が行っているアクティブな運用(電力貯蔵装置等)ではなく、もっと簡単なパッシブな方法を積極的に導入し上下線別分割き電、上下線一括き電、上下線タイき電を行っている。(回生電力の効率的利用、き電電圧の均圧化等)

 関西圏の私鉄も上下線一括き電を積極的に導入している。関東圏では東急電鉄が地下部を除く部分が、すべて上下線一括き電に切り替わっている。東武鉄道でも上下線別分割き電、上下線一括き電、上下線タイき電が導入されている。小田急でも江ノ島線の一部で上下線一括き電を行っている。西武線でも取り入れられている。京成線は確認していない。

小田急江ノ島線 かつて上部鉄構には22㎸送電線が張られていた

小田急江ノ島線 上下き電線を均圧線で一括き電 事故時は取り外せるようボルト止め

西武 新宿線 上下一括き電方式 上下線のき電線が均圧線で結合


通常の直流き電方式

上下線別分割き電


上下線別分割き電+直流き電区分所を設ける場合
上下線タイき電をき電区分所で対応 

 き電線の合成抵抗は1/2となり電圧降下が軽減され、電圧降下の最大値が発生する点は変電所間隔をAkmとすると変電所からA/3の点で、その電圧はき電区分所がない場合の1.5倍程度になる。
利点:
変電所間隔が長い場合(変電所だけでは中間の電車線電圧が保てない場合)
回生ブレーキによる電圧上昇が大きくなる区間
線路が分岐する場合、車両基地のように本線から分岐する場合
上下き電線を直流高速度遮断器を介して直流母線で統合しているため事故時、作業時のき電区分が可能
上下線の渡り線には、セクションインシュレーターが必要

JR東日本では多用されている。(例示:上越線、信越線、中央線等)
変電所間隔が長い場合

分岐部


上下線別分割き電+直流上下線タイき電

 き電タイポストは、き電区分所と同様に、電車線の電圧降下軽減、均圧化を目的として設けられている。
利点:
変電所間隔が長い場合(変電所だけでは中間の電車線電圧が保てない場合)
回生ブレーキによる電圧上昇が大きくなる区間
構造的には、上下のき電線を両方向性直流高速度遮断器を介してつなげたもの。
単に上下線を結んだものなので、上下線の区分は可能、しかしき電区分はできない。
エア―セクションが必要ない。効果はき電区分所と同じ。
上下線の渡り線には、セクションインシュレーターが必要
JR東日本では多用されている。(篠ノ井線、中央本線)

変電所間隔が長い場合

回生ブレーキによる電圧上昇が大きくなる区間?
1183. JR東日本 青梅線 中神タイポスト運開とTC型エアーセクションの現状
変電所間隔は、短い。上下線の架線電圧差が大きいためTC型エアーセクションが以前から設備されていた。中央線12両化のために拝島変電所⇔立川変電所の中間地点にタイポストが設けられた。中神のタイポストが運用されれば青梅線上下の電圧差は、少なくなるはず。
出典(「配線略図.net・https://www.haisenryakuzu.net/」)引用一部改変
 下り中央線から青梅線に入る渡り線は、断路器で青梅線下りき電もしくは中央線下りき電に選択できるようになっている。定位は中央線下りき電。途中エアーセクションがあり青梅線下りき電に替わる。立川駅青梅線上下線ホームは、青梅線上りき電になっている。中央線上りに入線する青梅線上り電車はTC型エア―セクションを通過、分岐器上のセクションインシュレーターを通過して中央線上りき電になる。

直流上下線一括き電
上下線一括き電
 複線区間の上下き電線を均圧線で並列につなげた物。変電所の直流高速度遮断器は方面別で各1台で対応(ただし大容量)

利点:
既存の上下分離き電に均圧線を並列にいれ、変電所の直流高速度遮断器の整定値を上げ2台運用とするだけで運用可能
変電所におけるき電設備を従来の分割方式の半分にできる
電車線電圧の低下防止、電力損失の低減(き電線を含め)並列回路となるので電気抵抗を少なくできる
回生ブレーキ使用時の回生失効軽減、回生効率の向上が図れる。上下線で融通
直流高速度遮断器が2台に削減できる
上下線の渡線には、セクションインシュレーターは必要ない

欠点:
片線で事故発生の場合、もう片方も き電停止になる
負荷電流が大きくなるので大容量の直流高速度遮断器が必要になる。
高抵抗地絡事故が検出できなくなる。←JR東日本が一番嫌うところ 但し連係線を用いて き電保護パックを上下線一括き電区間に張り巡らせれば回避できる。

 上下線分割き電の場合 回生電力の有効利用はできにくい。同一線路(同一き電回路)に負荷車が存在しない場合、回生失効となるか変電所母線を通じて他の線区の負荷車に供給することになる。他の線区の負荷車があっても回生車から負荷車までの電力供給の送電距離が長い場合は、送電ロスが発生する。

以下の文献が詳しい
廣瀬 寛ら:運動エネルギーの定量化
JR EAST Techical Review;2012,No.40,pp.29-32
リンク 運動エネルギーの定量化 JREAST 文献 pdf

 東武鉄道の場合一部の路線 野田線全線、伊勢崎線 館林ー鷲宮間、曳舟ー浅草間、日光線 東武日光ー栗橋間、東上線 森林公園-武蔵嵐山、は上下線別になっているき電線をボンドして上下一括き電を行い、回生電力の有効活用と電圧降下を軽減、き電電力の節約を実施している。
野田線

伊勢崎線

日光線

東上線

その他(曳舟ー浅草間)

 上下線一括き電の場合、上下き電線は、並列接続、近傍に負荷車が存在している確率も分割き電の2倍となり、回生失効もおのずから1/2に軽減される。変電所母線を通じて他の線区に電力を送る場合もき電線の電気抵抗が小さいので送電ロスも少なくなる。ただし上下線一括き電でも回生電力を吸収できない場合があり、その場合は駅舎電力変換装置を導入して高配に電力を戻すことはできる。

 JR東日本は、回生失効を阻止するため積極的に電力貯蔵装置の導入を図っているが運用が完全にはできていないと文献から読み取れる。なぜ上下線一括き電を導入しないかは不明である。首都圏の通勤線区の回生有効率は、ほとんど100%。変電所間隔も短いので導入の必要がないためなのか?交流区間常磐線などは上下線一括き電を行っている区間がある。新幹線も一種の上下線一括き電。但し、補助き電区所、き電区分所でタイき電を行っている例がある。 駅舎電力変換装置は、新津駅に回生電力吸収用として設備されている。

き電パターン
北海道新幹線(JR北海道) 定位き電パターン 上下一括き電
北海道新幹線(JR北海道) 非定常き電パターン 上下分離き電
北海道新幹線(JR東日本) 定位き電パターン パラき電
北海道新幹線(JR東日本) 非定常き電パターン パラき電
 北海道新幹線(JR北海道)は定位は上下一括き電だが新青森SS、新発田ATP、新富田SPまでは、JR東日本の管轄に入るので、新青森SSでの切替で上下一括き電を行っている。但し何らかの事案が発生した場合、上下分離き電、パラき電、準パラき電で運用される。また新富田SPには、延長き電時の電力量融通のための電力計が設けられ、各社の融通電力の積算を行う

JR西日本 学園都市線における回生電力融通状況
(この項変電所と車両の同時電力測定による回生電力融通状況の分析から運用一部改変)
き電方法の見本市みたいな系統である 
注意:ここで言う電流が負とは流れる方向が順方向変電所から電車線ではなく電車線から変
   電所母線への戻りを示す。
単線あり、上下線一括き電、上下線タイき電、上下線別き電ありの学園都市線のき電系統
 上下タイと記載されている部分は上下線一括き電、住道TP(タイポスト)部分が上下線タイき電

各事例で説明
事例1 上下線一括き電と上下線タイき電区間 き電区間内での回生電力融通
  回生中の5965M(ー624A)から同一区間に在線する力行中の5960M(994A)へ回生電力の融通が行われている。一部は津田SSから供給、四条畷SSからはわずかである。

事例2 上下線一括き電と上下線タイき電区間 隣接き電区間内での回生電力融通
  四条畷SSの変電所母線を通じて、四条畷SSー放出SS間の回生中4529B(ー1360A)から津田SSー四条畷SSに在線する力行中の5983M(1257A)に回生電力の融通が行われている。




事例3 単線区間を含む上下線一括き電と上下線タイき電区間 遠方への回生電力融通
 ブレーキ中の5960Mはパンタ点電圧が1804Vと高く回生電力が0Aであるので回生絞り込みが発生している。
 5969Mは田辺SS京橋方と津田SS木津方の電流がともに負となっているためブレーキ中であることが推察される。次に5965Mおよび5964Mはともに惰行中、4515B、4513B、4502Bは停車中 
 四条畷SSの放出方1006A、放出SSの四条畷SS方はー716Aで差分290Aは4515B、4513B、4502Bは停車中の補機電流となる。
 放出SSの四条畷SS方、京橋方の電流はともに負であり学園都市線の回生電流が、おおさか東線、放出派出所方に供給されている。5969M、5967M、5962Mの回生電流が津田SS、四条畷SS、放出SSを通じておおさか東線、放出派出所方に流れていたと推定でき約25kmの範囲に回生電力が流れていたことになる。(同様な例は前述の廣瀬 寛ら:運動エネルギーの定量化にも書かれている)


事例4 単線区間を含む上下線一括き電と上下線タイき電区間 同時回生 回生絞り込み発生
 田辺SSー津田SS間の5981M、5974Mはブレーキ中でパンタ点電圧が175数十Vと高く電流値もー280A前後となり回生絞り込み中となる。5983Mおよび5972Mは在線位置から推定するとブレーキ中か惰行中と推定されるので、このき電区間では列車2~4本が回生中と判断される。田辺SSと津田SS間の電流の和から552Aの回生電流が流出している。
 津田SSー四条畷SS間に在線する5979Mは、津田SSと四条畷SS間の電流の和157Aから惰行中と判断できる。
 四条畷SSー放出SS間に在線する4525B,4514B,は四条畷SSと放出SSの電流の和から432Aの回生電流が流出しているので各列車は惰行中もしくは回生中。4529B、4527B、5967Bは在線位置から停車中となる。このき電区間では列車1~2本が回生中と判断される。
 下狛SSと放出SSの区間では力行中の列車は存在しないことになり、回生中の列車が3~6本運行し残りは停車もしくは惰行中となる。
 単線の下狛SSは木津方及び京橋方の電流の和が約0であり変電所から電力供給が行われていない。田辺SSは、京橋方の電流に比較して木津方の供給電力が大きく、また津田SSと四条畷SSは木津方の回生電力に比べて京橋方の電流が大きくなっておりいずれの変電所も電力供給を行っている。
  この区間は上下線一括き電・上下線タイき電区間であるが回生絞り込みが発生しており、変電所送り出し電圧の見直し、車両の回生絞り込み制御の見直しを行う必要がある。前に述べた駅舎電力変換装置などで回生電流の回収を行うのも一法であると思う。
 



参考文献(順不同)

変電所一般 き電変電シリーズ:日本鉄道電気技術協会
津川 進;東京急行の一括き電:鉄道と電気技術,Vol.13,No.5,pp36-39,2002
谷本 健;直轄施工による上下一括き電の試行について:鉄道と電気技術,Vol.25,No.1,pp.34-37,2014(近鉄)
村井 孝明;回生失効対策としての上下線一括き電方式:OHM,Vol.104,No.10,pp.22-25(
阪急)
小川 知行ら;変電所と車両の同時電力測定による回生電力融通状況の分析:電気学会研究会資料,TER-16-36,2016.5.19,pp.77-82(技研・JR西日本)
杉本 健:通勤線区における回生有効率と閑散線区における回生有効率及びその向上策の研究:T.IEE Japan,Vol.120-D,No.4,pp.532-543,2000
津軽海峡線工事誌/電気;日本鉄道建設公団関東支社編,第二編送電、第三篇変電、第四編電車線 pp.131-139,pp.258-272,pp.297-375
津軽海峡線工事誌/電気;日本鉄道建設公団関東支社編,第一章~第二章,第三篇変電 pp.141-239
津軽海峡線工事誌/電気は2冊あり、それぞれ内容が違う





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