鉄道ふれあいフェア2024に行くために埼京線に乗車していたら埼京線と並行で運行している新幹線の新与野き電区分所の下り線SNセクション出口(与野本町-北与野間)に何か違和感があったので、与野本町で下車して確認してきた。
この区間 従来のヘビーコンパウンドカテナリー架線(以下HCとする)から高速シンプル架線(以下HSとする)に交換されている区間に該当する。
JR東日本発表 2020年1月21日
以下引用
東北・上越新幹線では、コンパウンド架線という3本の電線で構成された電車線設備を主に使用しています。これを2本の電線で構成されるシンプル架線に変更するとともに、ちょう架線とトロリ線に新たな材料を採用することで、機能向上を図ります。
引用終わり
新型電車線設備導入予定区間 線区 区間
東北新幹線 上野~大宮 架線延長45 km 低張力タイプ:130km/h対応
古川~盛岡 架線延長160 km 高速化タイプ:360km/h対応
上越新幹線 大宮~本庄早稲田 架線延長125 km 省メンテナンスタイプ:320km/h対応
今回の張替場所は赤枠で囲んだ区間が該当 |
PH200 架空送電線用(2種)硬銅より線
・素線数/素線径:37/2.6㎜
・計算断面積:196.4㎟
・公称外径:18.2㎜
・直流抵抗:0.0920Ω/㎞
トロリ線 GT-SNNE170 銅を主成分に錫(Sn)とインジウム(In)を添加
・計算断面積:170㎟ ・電導率80%以上 耐摩耗性が向上
新型トロリ線GT-SNNS170の開発と JR 四国・瀬戸大橋線への導入について 株式会社プロテリアル
この上野~大宮間の工事は随時進行中で、今回たまたま工事中の区間を見ることができた。
場所は、新与野き電区分所の中セクション出口から大宮駅方面 駅としては与野本町ー北与野間 低張力タイプ:130km/h対応のまさに張替作業中の現場である。昼間なので作業は停止されているが仕掛状況を見ることができた。上野ー大宮間は2021年3月のダイヤ改正で最高時速130km/hとなっているので架線が替わっても最高速度の変更はない。
HS化の張替行程は合計6ステップで行われる。そのため施工の機械化を目的に保守用車群を導入した。その内容は
SW(ストレッチワゴン)長大ドラムを搭載でき巻き取り装置が設備されている 2両1組で運用され、張力を掛けながら架線を送り出し、もう一台は撤去架線を巻き取る
資料より引用 |
MTW(マルチタワーワゴン)広範囲に移動できる作業台が有り、広い作業スペースで電柱までアプローチができるので延線した電線の引留めも容易 2両1組
資料より引用 |
TW(タワーワゴン)上下動作する広い作業台で金具の架け替えに対応 2両1組
資料より引用 |
合計6車両1編成で作業を行う。作業間合い時間は、最も時間が掛かる架線構成変更(ステップ4)で210分の時間である。これら保守用車群は昼間は作業基地に留置。最終列車通過後移動するためこの移動時間を確保して210分の作業時間を確保する体制がとられている。このため作業基地が無い大宮駅付近の工事は保守用車群を駅構内のホーム部に留置することが検討されている。
今回はステップ4 架線構成変更とステップ5を見ることができた。 |
駅停車時 何気なく新幹線の下り架線を見たら何か違和感があった。
上り線のHCが被っているが下り線がHSになっている。トロリ線も新しい ブラケットに袴が噛ませて有って架線が噛んでいる。 |
別角度 上り線のHCが被っているが下り線がHSになっている。トロリ線も新しい ブラケットに袴が噛ませて有って架線が噛んでいる。 |
ブラケットの袴は仮設の金具(コロ付き)吊架線St180(亜鉛めっき鋼より線)が載せてある ブラケットの通常金具には新銅線PH200が異種金属緩和スリーブを挟んで固定されている |
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ブラケットの袴は仮設の金具(コロ付き)吊架線St180(亜鉛めっき鋼より線)が載せてある その下には補助吊架線補助吊架線(PH150 硬銅より線)が固定されている。 |
全体の状況 ブラケットの曲線引具には新しい新しいGT-SNNE170トロリ線が留められている つまり工法のステップ4の状態を見ていることになる。この状態にするのに210分掛かる |
吊架線 St180(亜鉛めっき鋼より線)公称断面積180㎟ HCに使用していた |
補助吊架線 PH150 硬銅より線 公称断面積150㎟ HCに使用していた |
新しいGT-SNNE170 公称断面積170㎟ 摩耗管理用の溝があるらしいのだが見分けがつかない |
HSの引留め部が自動張力調整装置で引き留められている 上にHCの吊架線吊架線 St180(亜鉛めっき鋼より線)が仮留めされている 下に補助吊架線 PH150(硬銅より線)が仮留めされている。 AT保護線(PW)がしっかり取り付けられている |
別角度 ここから右は中セクション部となり既にSH化されている |
左ブラケット手前 中セクションの架線を保持 HS化架線済 左ブラケット奥 大宮SS方 HS化トロリ線・吊架線とHC化の吊架線と補助吊架線を保持 右ブラケット 新大宮SS方 HS化吊架線とHC化の吊架線を保持 一応碍子で絶縁されているが一番微妙な場所 |
HS化架線とHC吊架線、補助き電線の絶縁碍子が平行になっている 奥の碍子保持 HC吊架線と補助吊架線、手前碍子保持(新しい)HS化架線 一番手前に中セクションのHS化架線が通過している |
別角度 |
HS化架線とHC吊架線、補助き電線の絶縁碍子が平行になっている部分で両架線を繋いで均圧化用のジャンパ線がつながる(手前の真新しいHS化架線の吊架線とHC補助吊架線がつながる。さらにHS化架線の吊架線とHC吊架線がつながる)
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右ブラケット
中セクションのHS化架線に新与野SPの中セクションき電線がつながる
HS化架線のこのコネクタ形状は共振を抑える効果がある
左ブラケット
新大宮SS方 HS架線とHC吊架線、補助吊架線を保持
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右架線柱が上の画像 セクション前の表示 左架線中が下の画像 Oの表示 |
手前ブラケット 中セクションの吊架線保持 手前に碍子で絶縁 位置変更 その下 中セクションのトロリ線保持 手前で碍子で絶縁 位置変更 奥ブラケット 新大宮SS方 HS架線とHC吊架線、補助吊架線を保持 上り線は、まだHC化されたまま 中セクションのHS化架線は次の架線柱で自動張力調整装置で引き止められている |
新大宮SS方 HS化架線と旧HC化吊架線、補助吊架線が同居 ステップ4 |
新大宮SS方 HS化架線と旧HC化吊架線、補助吊架線が同居 ステップ4 |
新大宮SS方 HS化架線と旧HC化吊架線、補助吊架線が同居 ステップ4 |
新大宮SS方 HS化架線と旧HC化吊架線、補助吊架線が同居 ステップ4 ところどころで吊架線同士が均圧線で繋がる HS化架線のこのコネクタ形状は共振を抑える効果がある |
HC化架線とHS化架線のエアージョイント部 HS化架線は右から まだ大宮方はHC化架線のまま エアージョイント部 |
エアージョイント部のジャンパ線 |
HC化架線とHS化架線のエアージョイント部 まだ大宮方はHC化架線のまま パンタ通過 |
HSの引留め部が自動張力調整装置で引き留められている 上にHCの吊架線吊架線 St180(亜鉛めっき鋼より線)が仮留めされている 下に補助吊架線 PH150(硬銅より線)が仮留めされている。 AT保護線(PW)がしっかり取り付けられている |
拡大 |
新大宮方HCの引留め部 引留め方法はテンションバランサ この前切れた物と同じ構造 下り線 HS化架線部 ステップ4の状態 |
新大宮方HC化架線のトロリ線、補助吊架線が表れる |
HC化架線の吊架線を載せている袴部 大宮 幹線のシール貼付 |
新大宮方 HC化のまま |
右 戸田SSP方 下り線は、まだHC化架線 左 新与野SP方からHS化架線が始まる |
新与野SP方からHS化架線が始まる。交換されたばかりで新しい 中セクションがHS化架線 自動張力調整装置で引き留め |
新戸田SSP方 Tき電線がHC架線とつながる |
中セクションに進行中 HC化架線とHS化架線のエアーセクション部 |
戸田SSP方 HC化架線が引き上げられる 中セクションはHS化 |
別角度 |
中セクション HS化 セクション標識が並ぶ |
中セクション部の標識 この標識がある部分が中セクションであることを示す |
中セクション中を示す標識 |
中セクションの長さは約900mから1500mと言われている。 |
中セクションの終端 近く 新大宮方HC化の吊架線だけになっている すなわち工法のステップ5が終了している 以下は3日前の画像 補助吊架線が撤去されている |
3日前の画像 HSの引留め部が自動張力調整装置で引き留められている 上にHCの吊架線吊架線 St180(亜鉛めっき鋼より線)が仮留めされている 下に補助吊架線 PH150(硬銅より線)が仮留めされている。 AT保護線(PW)がしっかり取り付けられている |
HC化の補助吊架線の碍子が無い。HC化の吊架線碍子だけ残存 すなわち工法のステップ5が終了している |
3日前の画像 左ブラケット手前 中セクションの架線を保持 HS化架線済 左ブラケット奥 大宮SS方 HS化トロリ線・吊架線とHC化の吊架線と補助吊架線を保持 右ブラケット 新大宮SS方 HS化吊架線とHC化の吊架線を保持 一応碍子で絶縁されているが一番微妙な場所 |
SN部中セクションに新与野SPのSN線がつながる 右 ブラケット 袴の上に吊架線だけが残存 |
3日前 中セクショントロリ線と新大宮方トロリ線が平行に張られている箇所 間隔は50㎝ パンタ通過中 右ブラケットの補助吊架線がまだある |
別角度 左ブラケット部の補助吊架線が無い ステップ5が終了 |
新大宮方 HC化始まり 中セクションのHS化の残存HC 吊架線がまだ残っている |
HSの引留め部が自動張力調整装置で引き留められている 上にHCの吊架線吊架線 St180(亜鉛めっき鋼より線)が仮留めされている 下に補助吊架線 PH150(硬銅より線)が撤去されている。 AT保護線(PW)がしっかり取り付けられている |
3日前 HSの引留め部が自動張力調整装置で引き留められている 上にHCの吊架線吊架線 St180(亜鉛めっき鋼より線)が仮留めされている 下に補助吊架線 PH150(硬銅より線)が仮留めされている。 AT保護線(PW)がしっかり取り付けられている |
ちなみに東海道新幹線でも同様な工事が行われている。
ヘビーコンパウンド架線からヘビーシンプル架線(高速HSとの呼称)この工事の場合トロリ線は、現状のトロリ線を使うので行程日数はJR東日本と比較して1日短い
以下にその工法を載せる
吊架線がMe、補助吊架線がAx、トロリ線がTrで表す |
速度 300km/h 超に対応した高速シンプル架線の開発
鉄道技術総合研究所報告2019年 内部に架高に関しての共振の項目がある。ちなみにこの高速HS化された場所で架線の切断事故を起こしている。
東海道新幹線 豊橋駅~三河安城駅間下り線におけるちょう架線断線の原因について 2023年
この時の事故原因はヘビーコンパウンド架線のブラケット部にヘビーシンプル架線(高速HSとの呼称)を適応したためにトロリ線を吊るハンガが長いため共振して金属疲労で破断したことによる。
JR東日本ではヘビーコンパウンド架線のブラケット部をそのまま利用している部分がありハンガが長いままの部分があるので、将来的はブラケット交換して架高を小さくする方向になると思う。 ヘビーコンパウンドは架高1,500㎜ ヘビーシンプルは架高950㎜が標準
上野ー大宮間は張力が弱い低張力タイプが使われているのでハンガが長いと共振が起こる可能性が高くなると思う (私見) あの 間延びしたシンプルカテナリはどうも頂けない。
参考資料
北山 蓮ら;新幹線電車線路シンプル化工事の取り組みについて:鉄道と電気技術Vol.35,No.5,pp.39-44,2024
小谷 藍太;同相き電工法による中セクション高速ヘビーシンプル架線化の実現:鉄道と電気技術Vol.34,No.6,pp.22-26,2023