東急電鉄発表資料より引用(第1回目資料)
発煙箇所は、レール絶縁箇所 両側が焼損しているが、片方がひどいのは転轍機のレール電気抵抗差とかリムとレール表面の接触面積が関係しているものと思われる 東急電鉄発表資料より引用(第2回目資料)
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最初この事案が発生した時、以下の文献情報を思い出した。
川原敬治ら;交直切替箇所におけるレール絶縁保護装置 レール絶縁部アーク発生抑制対策:鉄道サイバネ・シンポジウム論文集,2001,38th,pt.2,論文番号612、pp.402-405
この文献内容は要約すると以下のようになる。
文献より引用
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この装置の役割は、直流区間の電位が交直区間を跨いだ瞬間(レール絶縁継ぎ目)にアークが発生してレールを溶損することを防止する装置である。
この図の
Z変電所は、梶屋敷変電所
Y変電所 能生変電所
X変電所 名立変電所
W変電所 直江津変電所
V変電所 潟町変電所
を示す。
まさしく直流の遊流が交流区間に流れ、車両通過後の最後尾車両の車輪がレール絶縁継目を離れる際にアークが生じる現象である。
分析では、W変電所(直江津変電所)から150~200Aの横流が発生。その間にWからZ変電所間に在線する列車が力行、惰行を行いZ変電所(梶屋敷変電所)に通常以上の横流が流れ、レールの対地電圧の上昇がレール継ぎ目のアーク発生の原因であるとしている。
そこで継目保護装置を導入、
この装置の機能は、列車が中セクションを通過時、交流側と直流側のレールを負荷断路器でつないで横流を列車を経ないで分流する方式である。
もちろんこの文献は、交流-直流間における直流游流に関する問題であるが、この例を日吉駅に当てはめると以下のような推定が浮かび上がる。
この図の
Z変電所は、梶屋敷変電所
Y変電所 能生変電所
X変電所 名立変電所
W変電所 直江津変電所
V変電所 潟町変電所
を示す。
まさしく直流の遊流が交流区間に流れ、車両通過後の最後尾車両の車輪がレール絶縁継目を離れる際にアークが生じる現象である。
分析では、W変電所(直江津変電所)から150~200Aの横流が発生。その間にWからZ変電所間に在線する列車が力行、惰行を行いZ変電所(梶屋敷変電所)に通常以上の横流が流れ、レールの対地電圧の上昇がレール継ぎ目のアーク発生の原因であるとしている。
そこで継目保護装置を導入、
この装置の機能は、列車が中セクションを通過時、交流側と直流側のレールを負荷断路器でつないで横流を列車を経ないで分流する方式である。
もちろんこの文献は、交流-直流間における直流游流に関する問題であるが、この例を日吉駅に当てはめると以下のような推定が浮かび上がる。
新横浜線の日吉方上り線は、シールドトンネルから新横浜線最大の勾配を駆け上がる。つまり力行運転されている。帰線電流は、インピーダンスボンドを経由して新横浜変電所、元住吉変電所方に分流されている。
横浜方にある大倉山変電所には分流されない。そのまま目黒線内を運行する場合は、電位差は発生しないか発生しても問題ない電位差であった。最大限の傾斜を駆け上がった後は、回生運転で帰線電流を吸い上げることになる。
東横線に入る渡り線部分には、インピーダンスボンドは設置されておらず線路絶縁継目だけなので、東横線との間に帰線電流における電位差が発生し、車輪が絶縁継目を跨いで離れる瞬間アークが発生。線路間に挟んである絶縁板が過熱白煙を上げていた。
新横浜線下りは、同様な絶縁継目があったが慣行運転で下るだけなので、帰線電流もすくなく電位差が発生か発生しても問題ない電位差であった。
NHK画像から引用(東急電鉄説明資料) 新横浜線、目黒線の帰線電流は日吉駅構内では、分断されていた。電車の車輪が通過しなくとも、新横浜線上りは力行運転で日吉駅構内進入のため線路両端には電位差が継続的に発生。絶縁継目の絶縁体が劣化(トラッキング)し過熱して発煙を起こしたため、当該絶縁箇所を含む部分のレールを切断した。絶縁継目自体工場で一体成型で組み立てられ現場でレールに溶接接続されていた模様。 |
日吉駅構内のインピーダンスボンド(目視確認)と線路絶縁継目位置推定(NHK資料より) 出典(「配線略図.net」・アドレス「https://www.haisenryakuzu.net/」 |
元住吉変電所及び大倉山変電所 帰線接続位置 調べた限りでは、元住吉変電所の帰線は、東横線の元住吉駅停車線と追い越し線のみに繋がっている。目黒線側にはつながっていない。これでは電位差が出ても当然。き電線は、上下一括き電だが帰線は一括帰線ではなかった。 出典(「配線略図.net」・アドレス「https://www.haisenryakuzu.net/」 |
元住吉変電所 東横線帰線接続部 中央 東横線上り方 |
インピーダンスボンド中性点に帰線が繋がり、左右の線路に繋がっている |
一般的に線路間の電位差を低減させる方法としてはインピーダンスボンド中性点をクロスボンドする方法がある。新横浜線が運転開始した際は、目黒線の上下線がインピーダンスボンドの中性点を介してクロスボンドしていた形跡があったが、現在は外されている。
新横浜線分岐手前でクロスボンドされていた形跡がある。しかし電位差低減には余り効果が無かったようだ。現在では取り外され痕跡が残る。 出典(「配線略図.net」・アドレス「https://www.haisenryakuzu.net/」 |
日吉駅 目黒線 上下線 レール絶縁継目箇所 元住吉方 先ほどのクロスボンドが外されたインピーダンスボンドの元住吉方 この右方に電車が停止する。 |
目黒線下り方 インピーダンスボンド 中性点は板状の導体 |
目黒線上り方 インピーダンスボンド 中性点は板状の導体 |
今回の事案での対策は、クロスボンドが一番の選択肢となるが東急電鉄でも試行錯誤中と思われる。単にインピーダンスボンド中性点をクロスボンドすれば良いわけではない。
場合によっては、循環電流により線路破断の場合の検出ができなくなったり、信号回路に悪影響を及ぼす。特に駅構内でのクロスボンドについては定石がない。
JR駅(上野駅)でのクロスボンド例
インピーダンスボンド1台の中性点をクロスボンド右側の線路へ |
インピーダンスボンド1台の中性点をクロスボンド左側の線路から 前方で線路は、合流する。 |
線路同士のクロスボンド 中性点にクロスボンドされている 東急電鉄 目黒線は日吉駅 新横浜線方で、このようにクロスボンドされていた。 |
拡大 赤丸同士がクロスボンド |
東急電鉄 公式発表(原因と対策)
東急電鉄対応策 2案検討(推定)
構内信号用インピーダンスボンドに大きく関係 循環電流発生の恐れあり |
構内信号用インピーダンスボンドに無関係 一応 第一案のインピーダンスボンドまでケーブルは伸びている |
現場画像
第一案(不採用だが検討した形跡有)
東横線上り線側
東横線駅上り線 日吉駅後端のインピーダンスボンド コルゲート管に収容された新しい帰線がインピーダンスボンド下まで伸びている。インピーダンスボンド間の中性点接続部は端子が接続できるように穴開きに交換されている。
真新しいコルゲート管と穴開き端子板、この新しいコルゲート管にクロスボンド用のケーブルが収容されていると推測する。なお端子板には、接続した跡が残っている。インピーダンスボンド中性点に1本ケーブルが繋がっているが、これは直ぐ近くに日吉開閉所があるので、開閉所用の64Pの接地線と思われる。日吉開閉所については別に記事を挙げる。 |
接続痕 |
東横線駅下り線 日吉駅先端のインピーダンスボンド 新しいコルゲート管がインピーダンスボンド下まで伸びている。多分このコルゲート管にクロスボンド用のケーブルが収容されていると思われる。インピーダンスボンド間の中性点接続部は端子が接続できるように穴開きに交換されている。端子盤には接続痕が見られる |
第二案(こちらで採用)
東横線上り線側
線路に絶縁継目 奥にインピーダンスボンド 中性点に赤銅色に輝くケーブルと端子2個 上り線側 東横線 クロスボンドされたインピーダンスボンド 左下から真新しいコルゲート管がインピーダンスボンド後ろ側に伸びる。 |
東横線下り線側
上り線側の対面にあるインピーダンスボンドがクロスボンドされている |
拡大 右上から左下へインピーダンスボンドに伸びる新しいコルゲート管が敷設 残念ながら接続箇所の撮影はできなかった。 |
新綱島駅から力行で駆け上がる |
第一案、第二案の接続先 新横浜線
上り線側
新横浜線最大勾配を力行で駆け上がる上り線 このインピーダンスにはクロスボンドされてない。 このインピーダンスボンド下の軽量プラスチックトラフには、トンネル内にあるトロリ線き電区分、剛体架線き電区分からのき電線が収容され、日吉駅構内駅端の日吉開閉所へ繋がる |
奥に前項のインピーダンスボンドが見える 分岐奥にインピーダンスボンド(ピンクテープが付いている)から新しいコルゲート管(クロスボンドケーブルが収容)が駅方向に伸びる |
インピーダンスボンド中性点にクロスボンドされたケーブルが見える |
拡大 インピーダンスボンド中性点に端子 クロスボンド用ケーブルが繋がる |
新横浜線上りインピーダンスボンド中性点から日吉駅方面に伸びる新しいコルゲート管 新横浜線から東横線への渡り線沿いに敷設 一番手前のコルゲート管(左下)は、新横浜線下りインピーダンスボンドから日吉駅構内に伸びるクロスボンド用(不採用)ケーブルが収容されている。 |
インピーダンスボンド中性点にクロスボンド対策前の試運転時 前面展望動画から切り取り 運輸機構動画から引用 インピーダンスボンド中性点に加工されてない |
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拡大 インピーダンスボンド中性点に端子 クロスボンド用ケーブルが繋がる |
下り線側 新横浜線インピーダンスボンド中性点から伸びるクロスボンドケーブル収容コルゲート管。新横浜線、東横線下り線路下を潜り、東横線下り線のインピーダンスボンドへ 一部は、第一案の東横線下りのインピーダンスボンドへ |
其の他対策
渡り線 絶縁継目に監視カメラ設置
レール切断箇所は3ケ所に及ぶ レール絶縁箇所監視カメラは絶縁継目に向いている |
絶縁継目の絶縁クロスで覆われた内部には温度センサがある可能性大 監視カメラには「監視カメラ作動中」の表示 |
レールの車輪リムが触れる部分に絶縁塗装
車軸フランジ側はレールと接触している面が広いがリム外側には隙間が生じるため |
以下 TBSニュースダイジェストからの引用
「電圧差でレールの継ぎ目がショート」東急東横線・日吉駅の発煙の原因が明らかに
TBS News Dig(TBS NEWS DIG Powered by JNN)
先月、東急東横線の日吉駅構内で線路から煙が出て、およそ5時間半にわたって一部区間で運転見合わせとなった問題の原因について、東急電鉄は「電圧の違いでレールの継ぎ目がショートして焼けたため」と明らかにしました。
この問題は先月31日の午前中に2回、東急東横線の日吉駅構内の線路から煙が出ていることが確認され、東急東横線があわせて5時間半にわたって一部区間で運転見合わせとなったものです。 東急電鉄は16日の会見で原因について、東横線と目黒線・新横浜線のレールに生じる電圧に差があり、レールの継ぎ目を列車が通過する際に火花が発生し、継ぎ目がショートして焼けたためだったと明らかにしました。
発煙した部分は、今年3月に東横線と相鉄線の相互直通運転が始まったことで新たに作られていて、東急電鉄は「今回の発煙には相互直通運転が影響している」としています。 東急電鉄は火花の発生を抑えるため、電圧の差を減らす改修工事をすでに完了したということです。 また、東急電鉄の管内には今回と同じように電圧が異なる路線をつなぐ場所がほかにも二子玉川駅、大岡山駅、蒲田駅など8か所あるということで、東急電鉄はこうした場所の再点検を今月中にも完了させるとしています。
引用終わり
電圧が異なる路線で名前が挙がった3ケ所の駅構内配線図このほかに5カ所あるそうだ。
異電圧が発生しそうな場所に赤丸 |
異電圧が発生しそうな場所に赤丸 |
異電圧が発生しそうな場所に赤丸 以上出典(「配線略図.net」・アドレス「https://www.haisenryakuzu.net/」 |
考察結果
今回のレール絶縁箇所の発煙(トラッキング)は、新横浜線最大の勾配を駆け上がる電車の力行運転による帰線電流が絶縁継目に影響を及ぼしたとみて良いだろう。開業から今まで出なかったのは、徐々に絶縁部のレール型絶縁体がアークによる熱と経時的変化で絶縁体がグラファイト化するとともに絶縁劣化してトラッキングが発生 電車が通過していない状態下でも絶縁抵抗低下で過熱したことによるものと思われる。またアークによりレールが摩耗。マグネタイト(酸化鉄)が生成し、絶縁体上に蓄積。絶縁抵抗が低下したことも要因に一つだろう。絶縁体を挟んだレール電位が10Vを越えるとアークが発生する素因ができ40Vを越えると確実にアークが発生する。
また目黒線の帰線電流の吸い上げが、元住吉変電所では行われておらず、遠方の新横浜変電所で吸い上げが行われている点も電位差が発生する遠因になっていると思われる。今回の対策で東横線と目黒線・新横浜線は、インピーダンスボンド中性点でクロスボンドされて電位差は解消されている。
また き電線が東横線・目黒線は、上下一括き電、新横浜線は、綱島トンネルの日吉側にデッドセクションを挟んだ72D方式(Wセクション)が取られトンネル内は上下線別き電である。これも関係(帰線電流の吸い上げ)するかもしれないが、別資料でUpすることにした。
参考資料(順不同)
電食・土壌腐食ハンドブック:電食防止委員会編、電気学会 1966
弟子丸将;絶縁継目:RRR Vol.78,No.2,pp.28-31,2021
宮崎考俊;クロスボンド:信号保安 Vol.30,No.2,pp616,1975
藤田 敏ら;電車線路の計画と設計、第5章 帰線路の計画と設計:鉄道と電気技術 Vol.22,No.8,pp.33-34,1968
大谷兵一;クロスボンド施設の一方法:信号保安 Vol.9,No.12,pp.375-377,1954
月岡大祐ら;軌道回路絶縁箇所の火花と環流対策について:鉄道と電気技術 Vol.7,No.4,pp.23-25,1996
寺田夏樹ら;駅構内における帰線電流分布の解析:鉄道総研報告 Vol.30,No.1,pp.5-10
配線図については以下の資料を引用