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2026年9月9日

1592. スコット結線変圧器は、なぜ187kV以上で使えないのか 中性点の所在と三つの難点

 交流電化区間のき電用変電所ではスコット結線変圧器(66kV・77㎸・154kV受電)が多く使われており、新幹線の超高圧受電(北海道電力管内は187kV、他社管内は275kV)のき電用変電所では変形ウッドブリッジ結線変圧器からルーフデルタ結線変圧器が使われるに至っている。

 154kV以下の特別高圧系統では抵抗接地方式が用いられ、有効接地は適用されない。一線地絡時の電流を抑えられる利点があるが、健全相の電圧上昇は大きく、絶縁レベルの軽減はできない。これに対し187kV以上の超高圧系統では、絶縁コストが支配的になるため、直接接地により電圧上昇を抑えて絶縁レベルを下げる方が有利になる。

 超高圧電力系統は、故障時の保護と絶縁設計の面から、中性点の直接接地による有効接地を原則としている。この系統から直接分岐して受電する場合、短い送電線で相隣接する変電所に常時接地しているバンクがあれば、非接地とすることも可能である。

 電力系統では、異常時にさらに大きな電位が現れる。一線地絡時、健全相の対地電圧は有効接地系であれば常規対地電圧の1.4倍を超えない範囲に留まるが、非接地系では線間電圧まで、すなわち \(\sqrt{3}\) 倍に上昇する。

275kV系の平常時の対地電圧は

$$\frac{275}{\sqrt{3}} \approx 158.8\ \text{kV}$$

であり、一線地絡時にはこれが

$$158.8 \times \sqrt{3} = 275\ \text{kV}$$

すなわち線間電圧まで上昇する。

 ところが電鉄負荷ではそれに留まらない。き電用変電所の受電側で送電線が短絡し、受電遮断器が開放される前に電力会社電源が遮断されると、電車が電源停電を検知して回生を停止するまでの間、き電用変圧器の一次巻線を経由してき電側の他座に過電圧が発生する。これに耐えるには、送電線路と変圧器に直接接地系の二倍にあたる絶縁強度が必要となり、多大な経費を要して経済的に成り立たない。したがって超高圧受電では、き電用変圧器一次側の中性点接地が不可欠の条件となる。

 ではスコット結線に中性点はないのか。実際はある。一次側には電気的中性点(O点)が存在し、図のとおりT座巻線の途中に位置する。二次側の両座に等しい負荷が乗れば三相側が完全に平衡するというこの結線は、交流き電のき電用変圧器(スコット結線)にも採用されている。

 以下の結線図は、超高圧受電(187kV以上)を想定したスコット結線変圧器の構成である。巻線を直交させて描いているのは位相が90°ずれていることを示すためであり、線の長さは電圧の大きさを表さない。後出のベクトル図とは読み方が異なる。

 一次側は三相U・V・Wを受ける。M座巻線をU-W間に張り、その中点MからV相へ向けてT座巻線を立てる。T字形になるのはこのためで、T座巻線が受け持つ電圧は線間電圧の \((\sqrt{3}/2)\) 倍にあたる。

 二次側はT座・M座それぞれが独立した単相出力を持つ。各座はT端子とF端子の間に60kVを出力し、両者の間には90°の位相差がある。この60kVは新幹線ATき電の値であり、実際に超高圧受電のスコット結線変圧器が製作されたわけではない。あくまで、もし作るとすればこうなるという想定図である。

 O点は、三相電圧が平衡しているときに大地電位と一致する点である。線間電圧の正三角形でいえば重心にあたり、正三角形では頂点から対辺の中点へ引いた中線が重心を通るため、この点はちょうどT座巻線の上に乗る。図では、このO点から接地電流 \(i_o\) が流れる形で描いている。前述のとおりO点を正確に引き出すことはできないが、ここでは接地したと仮定した場合に何が起きるかを示している。(なお、変圧器では一次側の端子を大文字、二次側を小文字で表記する慣例がある。本記事で扱うO点は一次側の中性点である。)

 ただしこれは、平衡状態でのみ成り立つ関係である。スコット結線変圧器が受け持つのは二座の分担が刻々と変わる不平衡負荷であり、負荷が偏れば電気的中性点そのものが移動する。固定タップであるO点は中性点からずれ、図の \(i_o\) が示すように大地へ電流が流れる。

超高圧受電に求められる条件に照らすと、三つの難点がある。

 第一に、中性点電流の問題である。超高圧直接受電では、従来の電鉄き電用設備になかった「単相不平衡負荷と中性点電流」という新しい問題が生じる。平衡負荷時の電気的中性点であるO点を接地すると、負荷の不平衡によって電気的中性点が移動し、O点から大地へ電流が流れて通信線への誘導障害を招く恐れがある。この電流を極力小さくするには各巻線のインピーダンスを整合する必要があるが、スコット結線は特殊結線であるため、製作上インピーダンス整合が困難である。

 第二に、絶縁設計上の制約である。超高圧変圧器では、中性点に近い部分ほど対地電圧が低くなることを利用して、中性点側の絶縁を薄くする段絶縁(低減絶縁)を用いるのが一般的である。スコット結線でも、電気的中性点を直接接地すれば段絶縁の可能性は考えられる。だが各端子から同時に進入する外来サージを考慮すると、M座とT座の接続点(M点)の電圧上昇が厳しく、M−O間巻線の絶縁をあまり低くできない。結果として一次巻線を全絶縁とせざるを得ず、中性点を接地する経済的な見返りが十分には得られないことになる。現行の154kV機がフル絶縁を採用してアレスタを省略しているのは、この帰結である。

 第三に、そのO点を物理的に引き出せない。M座巻線の巻数を \(N_M\) とすると、O点はV相端子から \(N_M/\sqrt{3}\) ターンの位置にある。\(N_M\) が整数でも \(N_M/\sqrt{3}\) は無理数であり、巻線は整数ターンでしか作れないから、正確なタップは出せない。そもそもT座巻数自体が \((\sqrt{3}/2)N_M\) で無理数であり、スコット結線はこの近似の上に成り立っている。中性点を引き出そうとすれば、その近似の上にもう一段の近似が重なる。

 実機では、当初は一次側からM点(M座とT座の接続点)を引き出し、アレスタを接続して異常電圧に備えていた。その後、巻線全体をフル絶縁とすることでアレスタを省略する設計が現れ、現在の154kV機ではブッシング自体が設けられていない。明電舎の最新カタログにも、スコット変圧器はフル絶縁によりアレスタを省略する旨が記されている。

旧型アレスタ付きのスコット結線変圧器(一次側154kV )例示

大館変電所 右側 M点アレスタ付き 154kV降圧44kV /6.6㎸
左側 アレスタがもう1回路引き出されているのがY-Δ結線の6.6㎸側

 大館変電所の154kVスコット結線変圧器の単結線図では、M点にアレスタが接続されている(同時にO点にもアレスタがあるが、これは同一タンク内の所内変圧器の三次巻線側であり別系統)。

スコット結線変圧器 M点アレスタ
但し三次巻線付きなのでO点にもアレスタ(所内変圧器の三次巻線側であり別系統)。
スコット結線変圧器 単結線図 アレスタ付き 三次巻線付き 単結線図

田沢湖変電所154kV降圧44kV M点にアレスタ

中性点Ar Ar=アレスタ

 アレスタ無のスコット結線変圧器の代表例(一次側154kV )例示

酒田変電所 154kV降圧44kV アレスタ無 交換済

酒田変電所 154kV降圧44kV アレスタ無 交換済
 


最新型 盛岡変電所のスコット結線変圧器
最新盛岡変電所 154kV降圧22kV アレスタ無 明電舎製

別角度 アレスタ無

 盛岡変電所の154kVスコット結線変圧器(明電舎製)の端子配列図では、一次側端子はU・V・Wのみで、中性点にあたる端子自体が存在しない。

盛岡変電所 154kV降圧22kV スコット結線変圧器 銘板

 この違いは製造時期の差である。アレスタで異常電圧を吸収する設計から、巻線をフル絶縁として端子そのものを不要にする設計へ移行したことを、この例が示している。


 M座巻線の巻数を \(N_M\) とすると、1ターンあたりの電圧は \(V_L / N_M\) である。三相の中性点Oは正三角形の重心にあり、底辺UWからの高さは全高の1/3である。

$$\overline{MO} = \frac{1}{3} \cdot \frac{\sqrt3}{2}V_L = \frac{\sqrt3}{6}V_L$$

$$\overline{VO} = \frac{2}{3} \cdot \frac{\sqrt3}{2}V_L = \frac{V_L}{\sqrt3}$$

これを巻数に直すと、

$$\text{V端子からOまで} = \frac{V_L/\sqrt3}{V_L/N_M} = \frac{N_M}{\sqrt3}$$

 \(N_M\) が整数でも \(N_M/\sqrt3\) は無理数となる。巻線は整数ターンでしか作れないから、正確なタップは物理的に出せない。超高圧受電でスコット結線が採用されない第三の理由である。

 検算すると、\(N_M = 1000\) ターンなら V→O は 577.35 ターン、M→O は 288.68 ターン。いずれも整数にならない。

 仮に187kV以上でスコット結線変圧器を用いるとすれば、中性点を接地できない以上、非接地のまま使うことになる。スコット結線の場合、T座で電車が回生中に一次側のUV相またはVW相が短絡すると、短絡電流は流れないままM座に \(\sqrt{3}\) 倍の過電圧が現れる。この過電圧に耐える絶縁強度を、資料は275kV系統で旧400号としている。直接接地系の絶縁階級200号の二倍にあたる。送電線路と変圧器の双方にこれだけの絶縁を施せば多大な経費を要し、経済的に成り立たない。

 こうして超高圧受電には別の結線が求められた。当初採用されたのが変形ウッドブリッジ結線であり、現在はルーフデルタ結線に置き換わっている。いずれも一次側に中性点を素直に引き出せる構造を持ち、しかも結線が対称なため、製作誤差による中性点電流を小さく抑えられるという利点もある。

 これらの変圧器は三相―単相変換において、三相側の電圧不平衡率を3%以下(ただし判定に用いる負荷は連続2時間平均値)に収める運用が行われており、二次側では二つの単相出力間(スコット結線ではM座・T座、変形ウッドブリッジ結線・ルーフデルタ結線ではA座・B座)で位相差90°の交流が取り出されている。

 つまりこれらの三相―単相変圧器の運用においては、必ず変電所直下に異相区分セクション(在来線:デッドセクション/新幹線:切替開閉器)を置き、方面別異相き電でこの90°位相差のある交流をそれぞれ供給している。そしてき電区分所で異相の突合せが発生するため異相区分セクション(在来線:デッドセクション(一部切替開閉器)/新幹線:切替開閉器)が設けられている。


参考資料

日本国有鉄道大阪電気工事局;山陽新幹線新大阪・岡山間電気工事誌:1973

日本鉄道電気技術協会;高速運転に適した交流き電システムの開発 : ATき電システムはどのように開発され発展したか:2010.3





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