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2026年9月10日

1593. スコット結線変圧器から不等辺スコット結線変圧器へ ―― 斜辺から取り出すということ

 さて今回は、このスコット結線変圧器の分類に入る不等辺スコット結線変圧器の紹介

スコット結線変圧器から不等辺スコット結線変圧器へ

 交流電気鉄道は、電力会社の三相系統から電気を受け、単相の交流を架線に送り出す。三相から単相を取り出すという、この一点に交流き電のややこしさが集中している。

 その変換を担う結線のひとつがスコット結線変圧器であり、そこから派生したのが不等辺スコット結線変圧器である。両者は同じ巻線の組み方をしていながら、出てくるものがまったく違う。本ブログでは、一次側66kV・二次側22kVという条件を固定して、単相変圧器2台の組み合わせから不等辺スコット結線変圧器に至るまでを順に追う。

1. 単相変圧器2台によるスコット結線
 交流電化の最初の時点。仙山線での交流電化試験後の仙台まで交流電化の際に国鉄東仙台変電所に単相変圧器2台のスコット結線変圧器が用いれられている。

まず、単相変圧器2台で組む場合を示す。

前記事のM座=主座は同じことを差している。

 主座変圧器とT座変圧器を組み合わせて使う。一次側は66㎸ 二次側は22kV×2 驚いたことに、この単相変圧器2台を使う現物が、JR九州の折尾変電所に予備品として保管されていた。
 
1469. 九州巡検6 JR九州 折尾変電所 BTき電・ATき電 鹿児島本線・福北ゆたか線 4つの並行デッドセクション

JR九州折尾変電所の予備 単相スコット結線変圧器 

左 T座変圧器 右 主座変圧器 
 主座変圧器は、左が一次側(U、W、M)右が二次側M座 
T座変圧器は、左が二次側T座で右側が一次側で(V、M)となっている。



この変圧器は、特殊仕様で一次側電圧が110㎸と66㎸。二次側が22㎸(BT)と44㎸(AT)の複電圧


 このT座用変圧器の銘板には主座との接続、前記事のM点アレスタが書き込まれている。上部がT座変圧器、下部が主座変圧器でM点が繋がり途中にアレスタが書き込まれている。

以下の説明は一次66kV・二次22kVの場合として読んでいただきたい。
正三角形

M点の導出

 ではM点は巻線のどこに取るべきか。これは「二次側の2系統が互いに90°の位相差をもつこと」という要求から一意に決まる。

 一次側の三端子U・V・Wは、線間電圧を \(V\) とすると一辺 \(V\) の正三角形をなす。U-W間を実軸にとり、その中央を原点として

$$\mathrm{U} = \left(-\frac{V}{2},\ 0\right), \qquad \mathrm{W} = \left(\frac{V}{2},\ 0\right), \qquad \mathrm{V} = \left(0,\ \frac{\sqrt{3}}{2}V\right)$$

と置く。主座巻線上のタップ位置を \(\mathrm{M} = (x,\ 0)\) とすると、V相端子からM点へ向かうベクトルは

$$\overrightarrow{\mathrm{VM}} = \left(x,\ -\frac{\sqrt{3}}{2}V\right)$$

である。一方、主座巻線の方向は

$$\overrightarrow{\mathrm{UW}} = (V,\ 0)$$

 この二つが直交する条件は内積がゼロになることであり、

$$\overrightarrow{\mathrm{VM}} \cdot \overrightarrow{\mathrm{UW}} = xV + 0 = xV = 0 \quad \Longrightarrow \quad x = 0$$

 すなわち \(\mathrm{M}\) は主座巻線のちょうど中点でなければならない。90°の位相差を要求した時点で、タップ位置は中点に一意に決まるのであって、中点であることが先にあるのではない。中点以外にタップを取れば、二次側の2系統は直交しない。

 幾何学的にいえば、M点は正三角形の頂点Vから対辺UWに下ろした垂線の足である。正三角形では垂線の足が対辺の中点に一致するため、結果として50%タップになる。

M点とO点は別の点である

 同じT座巻線の上には、もう一つ名前のついた点がある。電気的中性点、すなわちO点である。前記事でO点を扱ったため、両者を取り違えないよう位置を確認しておく。

 M点は垂線の足であり、正三角形では対辺の中点にあたる。これに対しO点は重心である。正三角形では頂点から対辺の中点へ引いた中線が重心を通るから、O点もまた同じT座巻線の上に乗る。ただし位置は違う。重心は中線を \(2:1\) に内分するので、底辺UWからの高さは全高の \(1/3\) である。

$$\overline{\mathrm{MO}} = \frac{1}{3} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}V = \frac{\sqrt{3}}{6}V$$

$$\overline{\mathrm{VO}} = \frac{2}{3} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}V = \frac{V}{\sqrt{3}}$$

  \(V = 66\ \mathrm{kV}\) を入れると

$$\overline{\mathrm{MO}} = \frac{\sqrt{3}}{6} \times 66 = 19.053\ \mathrm{kV}$$

$$\overline{\mathrm{VO}} = \frac{66}{\sqrt{3}} = 38.105\ \mathrm{kV}$$

 合計すればT座巻線の全電圧57.158kVに戻る。O点はM点より38.105kVだけV相端子側、T座巻線の下から \(1/3\) の高さにある。本記事で使うのはM点のみである。

 O点は、三相電圧が平衡しているときに大地電位と一致する点である。超高圧受電では変圧器一次側の中性点を接地することが求められるため、接地すべき点として意味を持つ。ただしスコット結線ではこの点を巻線上のタップとして正確に引き出せず、そのことが超高圧受電に採用されない理由のひとつになっている。詳細は前記事で述べた。

 66kV受電の本記事では中性点接地は問題にならない。以下で使うのはM点のみである。

V相端子からM点までの電圧

 M点が中点と決まったので、V相端子からM点までの距離は

$$\left| \overrightarrow{\mathrm{VM}} \right| = \frac{\sqrt{3}}{2}V$$

したがって

$$V_{VM} = 66 \times \frac{\sqrt{3}}{2} = 66 \times 0.86603 = 57.158\ \mathrm{kV}$$

となる。この \(\frac{\sqrt{3}}{2}\) という係数は結線の幾何そのものであって、以後どの方式に進んでも変わらない。

 同一鉄心では1巻あたりの電圧が等しいから、巻数は電圧に比例する。T座一次巻線の巻数は、主座一次巻線の全巻数の \(\frac{\sqrt{3}}{2}\) 倍とすればよい。

巻線比

 二次側は、M座・T座ともに22kVを出力するものとする。

 主座(M座)の巻線比は

$$\frac{66}{22} = 3.0000 = 3$$

 T座の巻線比は

$$\frac{57.158}{22} = 2.5981 = \frac{3\sqrt{3}}{2}$$

二次側が90°の位相差をもつ理由

 M座の二次電圧は、主座一次巻線にかかる電圧、すなわちU-W間の電圧に比例する。T座の二次電圧は、V相端子からM点へ向かう電圧に比例する。この二つが直交することは、前項で内積を用いて示したとおりである。

 こうして、三相1系統の入力から、90°位相のずれた単相2系統の出力が得られる。これがスコット結線の本来の姿である。

 東仙台変電所の2台構成は、外部配線でM点を結んでいた。これを1台の器内で済ませたのが次の形である。

2. 1台構成のスコット結線変圧器へ
 主座巻線とT座巻線を同一の鉄心に収め、M点の接続を器内で済ませれば、1台の変圧器で同じ結線が実現できる。一次側の外部端子はU・V・Wの3端子となり、M点は表に出ない。
 
M点を外部に出さなくて済む手法は、前記事で既に述べている。

 電気的な結線は2台構成とまったく同一である。変わるのは実装だけで、据付面積が小さく、無負荷損が減り、一次側の口も3つで済む。現在のき電用変電所で見かけるスコット結線変圧器は、ほぼこの1台構成である。(古いスコット結線結線変圧器はM座を引き出しアレスタが付いているが、これは淘汰されるであろう)

 2台構成が残っているのは、移動用変圧器のように輸送・据付の単位を小さくしたい場合や、片座ずつ予備を融通したい場合である。

3. 不等辺スコット結線変圧器へ


 ここまでの二次側は2系統であった。不等辺スコット結線変圧器は、このM座巻線とT座巻線をo点で直列に接続し、斜辺(スラント)の両端t–m間から単相を1系統だけ取り出す。

 なぜそうするのか。二次側が2系統あると、その2つは90°の位相差をもつため、両者が接する箇所には必ず異相区分が要る。車両基地のように構内に渡り線が多数あり、全体を同一位相でき電したい場合、2系統では構内のあちこちに異相区分を作らねばならず成立しない。斜辺から1系統だけ取り出せば、構内はすべて同位相となり、区分は同相セクションインシュレーターで済む。

90°位相差の巻線を直列にしてよいのか

 直列接続の可否を決めるのは、同じ電流が流れて差し支えないかという一点である。二つの巻線は互いに独立しており、直列にしても閉ループができないから、循環電流は生じない。

 位相差があると打ち消し合うのではないか、という懸念は当たらない。打ち消し合いが起きるのは位相差が180°の場合であって、90°ではベクトル和がそのまま合成電圧になる。並列接続なら位相を揃える必要があるが、直列接続にその制約はない。

o・t・m間の電圧はピタゴラスの定理で決まる
 o点を共通点として、o–t間の電圧 \(\dot{V}_{ot}\) とm–o間の電圧 \(\dot{V}_{mo}\) は直交する。斜辺t–m間の電圧は
$$\dot{V}_{tm} = \dot{V}_{to} + \dot{V}_{om}, \qquad \dot{V}_{to} \perp \dot{V}_{om}$$
であるから、その大きさは
$$V_{tm} = \sqrt{v_{to}^{2} + v_{mo}^{2}}$$
となる。
 直角三角形の斜辺そのものであり、ピタゴラスの定理がそのまま当てはまる。「斜辺」という呼び方は比喩ではない。
 
 現行のPWMコンバータ搭載車は力率がほぼ1であり、この設計点では二次電圧の配分が \(v_{to} = v_{mo}\) の1対1に固定される。斜辺との角度でいえば45°である。したがって
$$v_{to} = v_{mo} = \frac{V_{tm}}{\sqrt{2}} = \frac{22}{\sqrt{2}} = 15.5563\ \mathrm{kV}$$
 二辺が等しくなったので、この三角形は直角二等辺三角形である。斜辺との角度が45°になるのはそのためである。
$$\sqrt{15.5563^{2} + 15.5563^{2}} = 22.000\ \mathrm{kV}$$
と、斜辺がちょうど22kVに収まる。

巻線比の作り直し

 ここで注意すべきは、標準のスコット結線変圧器の二次巻線をそのまま直列にしても使えない、ということである。各座が22kVのままなら、斜辺は

$$\sqrt{22^{2} + 22^{2}} = 31.11\ \mathrm{kV}$$

となってしまい、22kVのき電電圧に合わない。二次巻線電圧を \(1/\sqrt{2} = 0.7071\) 倍に作り直す必要がある。

 不等辺スコット結線のM座(m–o間)の巻線比は

$$\frac{66}{15.5563} = 4.2426 = 3\sqrt{2}$$

 同じくT座(o–t間)の巻線比は

$$\frac{57.158}{15.5563} = 3.6742 = \frac{3\sqrt{6}}{2}$$

 いずれも標準スコット結線の \(\sqrt{2}\) 倍である。M座とT座の相互の比は両方式とも

$$\frac{2.5981}{3.0000} = \frac{3.6742}{4.2426} = \frac{\sqrt{3}}{2} = 0.8660$$

で変わらない。変わるのは絶対値だけである。

4. 三相側の不平衡は、これでは直らない

標準のスコット結線が三相を平衡させる仕組み

 単相交流では、電圧も電流も向きが絶えず入れ替わる。50Hzなら1秒間に100回、60Hzなら120回、電圧がゼロを通る瞬間が訪れる。電流も同様である。両方がゼロに近づく瞬間、その瞬間に流れている電力もゼロに近づく。つまり単相負荷が電源から引く電力は、大きくなったり小さくなったりを絶えず繰り返しており、一定にならない。

 一方、三相交流は3本の電線が互いにタイミングをずらして働くため、合計すればいつでも一定の電力が流れる。

 標準のスコット結線変圧器は、90°ずれた2つの単相を作る。M座の電力が山にあるとき、T座はちょうど谷にある。両座に等しい負荷が乗っていれば、山と谷が正確に打ち消し合い、合計は常に一定になる。三相電源から見れば、あたかも三相の平衡負荷が繋がっているように振る舞う。これがスコット結線の平衡化能力である。

直列にすると、打ち消す相手がいなくなる

 不等辺スコット結線では、M座巻線とT座巻線が直列であるから、両巻線には同じ電流が同じ位相で流れる。負荷は斜辺に繋がった1つだけである。山と谷を打ち消し合う相手が存在しない。
 結果として、三相側の線電流は次の比になる。
$$I_U : I_V : I_W = (\sqrt{3}+1) : 2 : (\sqrt{3}-1) \fallingdotseq 1.366 : 1 : 0.366$$
 66kV受電・負荷15MVA・力率1で数値を入れると、
$$I_U = 253.5\ \mathrm{A}, \qquad I_V = 185.6\ \mathrm{A}, \qquad I_W = 67.9\ \mathrm{A}$$
となる。3線の電流が大きく食い違っており、三相側は平衡していない。不等辺スコット結線変圧器を採用しただけでは、三相側の不平衡は大きくは解消しない。

JR東日本 男鹿変電所 不等辺スコット結線変圧器
スコット角45度 不等辺スコット結線変圧器 二次出力がt,o,m
補償装置無
一次側6.6kV  三相側の電流が不均衡 U=169A、V=124A、W=45.3A
検証 V=1としてU=124A×1.366=169.4A W=124A×0.366=45.4A 

5. 三相のうち二相を取り出す方式との比較

 交流電化の末端などでは、三相のうち二相をそのまま単相として引き出す方式(二相き電)も用いられてきた。旧藤代変電所や黒磯の設備がこれにあたる。この方式では、負荷電流は2線だけを流れ、残る1線は無通電となる。
$$I_U : I_V : I_W = 1 : 1 : 0$$
 同じ15MVAなら
$$I_U = 227.3\ \mathrm{A}, \qquad I_V = 227.3\ \mathrm{A}, \qquad I_W = 0\ \mathrm{A}$$
である。
 三相側の電圧不平衡率の評価には、JRの212-1表が用いられる。単相結線と三相/二相変換結線とで式が分かれており、
単相結線では
$$K = Z P \times 10^{-4}$$
三相/二相変換結線では
$$K = Z \lvert P_A - P_B \rvert \times 10^{-4}$$
である。 \(Z\) は受電点の10000kVA基準の%インピーダンス、 \(P\) は連続2時間平均負荷、 \(P_A\) ・ \(P_B\) は両座の負荷である。

JRの212-1表

 なお212-1表が三相/二相変換結線として挙げているのは、スコット結線、変形ウッドブリッジ結線、ルーフデルタ結線などであり、不等辺スコット結線を名指ししてはいない。ここでは三相を二相に変換する結線として、同じ式を適用している。

 この \(Z\) は、受電点の短絡容量 \(P_s\) と
$$Z\ [\%] = \frac{1{,}000{,}000}{P_s}$$
の関係にある。これを単相結線の式に代入すると
$$K\ [\%] = \frac{100\,P}{P_s}$$
となる。後述する第7節の \(K_v \fallingdotseq W/P_s\) と同じ式であり、212-1表と短絡容量による評価は別の枠組みではない。

 不等辺スコット結線では、負荷が力率1で斜辺に接続されるとき、両座が分担する有効電力は
$$P_M = P_T = \frac{W}{2}$$
と等しくなる。したがって \(\lvert P_A - P_B \rvert\) は小さく抑えられる。

 これに対し二相き電では \(K = Z P\) がそのまま効いてくる。同じ負荷であれば、二相き電のほうが三相側の不平衡は大きい。線電流の配分を見ても、1線が完全に遊んでいる二相き電のほうが偏りが大きく、この結論と一致する。
 
 牛久補助き電区分所のRPCが、藤代変電所の変圧器を二相き電の単相変圧器から不等辺スコット結線変圧器に更新するまで実用に至らなかったのは、この差によるところが大きいと推測している。

6. 三相側の不平衡を解消する方策

理論図

 残る不平衡を消すために用いるのが平衡装置である。上図に示したとおり、o–t間(T座側)にコンデンサを、m–o間(M座側)にリアクトルを、それぞれ並列に接続する。

 直列接続によって失われた「山と谷の打ち消し合い」を、コンデンサとリアクトルという外部の素子で人工的に作り直すのである。コンデンサは電流の位相を進め、リアクトルは遅らせる。この二つを適切な容量で入れると、両座を流れる電流の位相が互いにずれ、90°の関係が回復する。

 力行時に必要な容量は、負荷の力率角を \(\theta\) 、負荷電力を \(W\) として、T座のコンデンサが

$$Q_{TC} = \frac{1 + \sin\theta}{2} W$$

M座のリアクトルが

$$Q_{MR} = \frac{1 - \sin\theta}{2} W$$

で与えられる。力率1( \(\theta = 0\) )の現行機では

$$Q_{TC} = Q_{MR} = \frac{W}{2}$$

となり、両者が等量になる。必要なリアクタンスは

$$X = \frac{V_{tm}^{2}}{W}$$

であり、 \(V_{tm} = 22\ \mathrm{kV}\) 、 \(W = 15\ \mathrm{MVA}\) とすれば

$$X = \frac{22000^{2}}{15 \times 10^{6}} = 32.27\ \Omega$$

各枝の電流は

$$I = \frac{15556}{32.27} = 482\ \mathrm{A}$$

容量は各7.5Mvarとなる。

 回生時は力行時と逆になり、T座に誘導性、M座に容量性が要求される。すなわちコンデンサとリアクトルの座が入れ替わる。固定のコンデンサ・リアクトルによる平衡装置が力行・回生の双方に対して万全でないのは、この事情による。ただし不平衡率の判定が2時間平均であること、回生電力量が消費電力量に比べて小さいことから、平均でみれば実用上支障のない範囲に収まる。


212-1表との整合について

 ここで一点、補足が要る。第5節で212-1表を当てると \(P_M = P_T = W/2\) となり、三相側の不平衡は小さいという結論になった。一方、本節では不等辺スコット結線には平衡装置が要ると述べている。一見すると矛盾する。

 212-1表は各座の有効電力だけを見る式であって、各座に生じる無効電力は勘定に入っていない。力率1の負荷を斜辺に接続すると、有効電力は両座に \(W/2\) ずつ等分されるが、無効電力はT座に \(+W/2\) 、M座に \(-W/2\) と正負が分かれて現れる。平衡装置が打ち消しているのは、この無効分である。第5節の比較は有効電力の分担についての話、本節は無効電力についての話であって、両者は別の層を見ている。

実機の例

日立製 不等辺スコット結線 銘板



 藤代変電所(常磐線、日立製作所2017年製、15000kVA、66kV→22kV)の平衡装置は、日新電機製のコンデンサ 22/√2 kV・3410kvar と、同電圧のリアクトル 3410kvar からなる。コンデンサ枝には直列リアクトル(L=12%、410kvar)が付属し、高調波と突入電流に備えている。
 電圧定格の 22/√2 kV は、まさに前節で求めた15.556kVである。平衡装置は各座の巻線に並列に入るのだから、当然この電圧になる。
 
 なお容量は3410kvarであって、定格15MVAから求まる \(W/2 = 7500\) kvar ではない。平衡装置の容量は変圧器の定格ではなく、実際の負荷に対して決められる。残る不平衡を許容範囲に収めればよいのであって、常に完全平衡を狙う必要はない。

なぜコンデンサ枝に直列リアクトルが入るのか

 コンデンサ枝に直列リアクトルが入っているのは、平衡のためではない。前節で示した平衡の条件は、基本波におけるコンデンサとリアクトルの容量だけで決まっており、直列リアクトルはそこに現れない。これは実装段階で加わる部品である。

 理由は高調波共振の回避にある。コンデンサ群を裸のまま母線に並列接続すると、系統側のインダクタンスとの間に並列共振回路ができ、特定次数の高調波をかえって拡大してしまう。き電負荷は単相のPWM変換器であり、単相変換器は原理的に奇数次、とりわけ第3次の高調波を強く出す。直列リアクトルを入れると、その次数以上で枝が誘導性に転じ、コンデンサへの高調波流入と共振の拡大を断てる。JIS C 4902-2の世界では第5次対策なら6%、第3次対策なら13%前後が定石であり、藤代の12%は第3次を睨んだ選定と読める。副次的には、投入時の突入電流の抑制という役割もある。

 直列リアクトルを入れても基本波の平衡機能は損なわれない。コンデンサ単体の定格電圧は 8.84 × 2 = 17.68 kV だが、12%のリアクトルを通すとコンデンサ端子電圧は母線の15.556kVより12%高い17.68kVとなり、定格に一致する。枝全体として母線に差し出す実効容量は

$$3410 \times (1 - 0.12) = 3001\ \mathrm{kvar} \fallingdotseq 3\ \mathrm{Mvar}$$

となり、m–o間の平衡リアクトル3Mvarと釣り合う。理論が要求する容量は、この組み合わせで実現されている。

 規格番号の対応もこれを裏づける。コンデンサPCの銘板はJIS C 4902-1、直列リアクトルSRはJIS C 4902-2であり、後者はコンデンサ用直列リアクトルの規格である。対で使うことが規格の段階で前提になっている。SRの銘板が自機の410kvarとは別に「コンデンサ群容量3410kvar」と相手方の容量を記しているのも、どのコンデンサ群と組むかを指定するためである。

 ただし、直列リアクトルが常に入るとは限らない。新潟車両基地の初代機不等辺スコット結線変圧器の単結線図ではo–t間にしか補償装置がなく、函館ではコンデンサ側に直列リアクトルが入る。高調波環境は場所ごとに違うため、一律ではない。ここで言えるのは、理論図には無く、藤代の実機には入っている、という二点である。

7. 平衡装置を付けない場合がある

 ところが実機を見ていくと、不等辺スコット結線変圧器を備えながら平衡装置を持たない変電所がある。北陸新幹線の白山総合車両所変電所、敦賀の基地変電所、長野車両基地変電所などである。

 これは受電点の短絡容量で説明できる。

 三相側の電圧不平衡率は、逆相電流 \(\dot{I}_2\) が電源の逆相インピーダンス \(Z_2\) に流れて生じる電圧降下を、相電圧 \(E\) と比べたものである。

$$K_v \fallingdotseq \frac{\lvert \dot{I}_2 \rvert Z_2}{E}$$

 正相・逆相のインピーダンスがほぼ等しく、短絡容量が \(P_s = V^{2}/Z_1\) で定義されることを用いて整理すると、

$$K_v \fallingdotseq \frac{W}{P_s}$$

という簡明な形になる。同じ負荷であっても、受電点の短絡容量が大きければ電圧不平衡率は小さくなる。電気設備技術基準の解釈が定める限度は、2時間平均で3%である。

 実測値のある2例で比べる。

 白山総合車両所変電所は154kV受電、変圧器容量30MVA、受電点短絡容量は最小2100MVAである。

$$K_v \fallingdotseq \frac{30}{2100} = 0.0143 = 1.43\ \%$$

 この変電所に平衡装置はない。

 函館総合車両所変電所は66kV受電、変圧器容量20MVA、受電点短絡容量は最小930MVAである。

$$K_v \fallingdotseq \frac{20}{930} = 0.0215 = 2.15\ \%$$

 こちらには平衡装置がある。

 いずれも3%は下回るが、実際に平衡装置が省略されているのは白山のみである。1.5%前後に実務上の目安があるように見える。

 なおこれらの値は変圧器の定格容量を入れたものであり、判定に用いる2時間平均負荷はこれより小さい。したがって上限側の目安として読むべき数字である。

 長野車両基地変電所は、開業当初は平衡装置を備えていたが、受電系統の改善によって短絡容量が大きくなり、現在は使われていない。同じ変電所で、短絡容量が変わったことにより平衡装置の要否が変わった例である。

8. まとめ

 スコット結線変圧器と不等辺スコット結線変圧器を分けているのは、巻線の作り方ではない。二次側を2系統として独立に使うか、直列にして1系統として使うかという使用方法である。

•90°の位相差を要求すると、一次側のタップ位置は主座巻線の中点に一意に決まる。T座一次巻線の電圧はそこから \(\frac{\sqrt{3}}{2}\) 倍と定まる。

•二次側を直列にすることで、構内全体を同位相でき電できる。異相区分が要らなくなる。

•その代償として、三相側を平衡させる仕組みが失われる。線電流は \((\sqrt{3}+1):2:(\sqrt{3}-1)\) に偏る。

•失われた平衡を取り戻すのが、T座のコンデンサとM座のリアクトルからなる平衡装置である。

•ただし受電点の短絡容量が十分に大きければ、不平衡が残っても電圧への影響は限度内に収まり、平衡装置を省略できる。

 斜辺から取り出すという一つの選択が、き電側の利便と三相側の負担という形で、はっきりと表裏をなしている。

実例の紹介

 新幹線の基地変電所では渡り線が複数あり、通常のスコット結線変圧器(二次側がM座、T座)でき電を行なうと渡り線間にデッドセクション(無電圧区間)を設けなければならず、複雑な運用を強いられる。そこで基地内同相き電を行なう必要があった。三相のうち二相間から単相電源を取り出す方式で基地内同相き電を行なうこともできたが、三相のうち二相のみを使用する状況では三相側の電圧不平衡率を3%以下にすることは新幹線基地のような大電力を使用する場所では、不可能であった。

 また直流―交流の末端変電所では、交流側にスコット結線変圧器を使うことができず(片方の座が余ってしまうため)、三相のうち二相を使ってき電を行なっているき電変電所もある(例:旧藤代変電所、黒磯変電所、青海変電所、小山変電所)。敦賀変電所、門司変電所も直流―交流の末端変電所であるが、特殊な運用でスコット結線変圧器を使用している。村上変電所は直流―交流の末端変電所であるが、スコット結線変圧器を使用していない。

 その他、JR線以外で単線の交流電化区間を独立して運営している路線として仙台空港線(延長約7km)・阿武隈急行線(延長約55km)があるが、これらもスコット結線変圧器を使用していない。阿武隈急行線はATき電方式を採用して変電所数を削減しており、そのためスコット結線変圧器を使用していない。

 これらスコット結線変圧器を使用していない き電用変電所のうち、旧藤代・黒磯・青海・小山のような二相き電の変電所を除いた一部では、不等辺スコット結線変圧器という特殊な結線方式の三相―単相変換変圧器が使用されている。以下、、これらの変電所の記事を紹介する。

訪問順(藤代変電所は定点観測を行なっていたので、ここだけ設置開始から運用までが記載)不等辺スコット結線変圧器が記事中にでてくるもののリスト

249. JR東日本 田端車両基地変電所(新幹線・直接き電)全面書き直し

301. JR東日本 新黒磯補助き電区分所(新幹線・ATき電)

藤代変電所 始まり

554. JR東日本 藤代変電所 再訪 不等辺スコット結線変圧器の設置 2017/6/28

620. JR東日本 藤代変電所 常磐線 定点観察(BTき電・交流)66kV対応不等辺スコット結線変圧器の設置

701. JR東日本 藤代変電所 定点観察 不等辺スコット結線変圧器の現状とデッドセクション新標識

720. JR東日本 藤代変電所 定点観察 不等辺スコット結線変圧器の現状とデッドセクション新標識 調査

740. JR東日本 定点観察 藤代変電所 不等辺スコット結線変圧器

781. JR東日本 藤代変電所・我孫子変電所 定点観察

822. JR東日本 藤代変電所・我孫子変電所 定点観察  新デッドセクション標識の行方 不等辺スコット結線変圧器稼動 2018/6/21 約1年で設置完了

藤代変電所 終わり

615. 阿武隈急行 保原変電所 (ATき電・交流)

648. JR東日本 新潟基地変電所(直接き電)交流

682. 仙台空港鉄道 空港鉄道変電所とデッドセクション BTき電

694. JR東日本 仙台基地変電所 新幹線 単相き電

700. JR東日本 村上変電所(交直)とデッドセクション 羽越本線 700投稿記念 元旦号

901. 東北巡検その二 JR東日本 男鹿変電所 男鹿線  EV-E801(ACCUM)用 AC20kV

1177. 東北・北海道巡検13 JR北海道 函館本線・道南いさりび鉄道 五稜郭変電所

1216. 東北・北海道巡検37 JR北海道 北海道新幹線 函館総合車両所変電所

1258. 信州巡検19 JR東日本 北陸新幹線 長野車両基地変電所の現状

1379. JR東日本 新幹線 田端基地変電所解体廃止  

1439. JR東日本 新赤沼き電区分所 一時撤去 長野基地変電所1回線受電に変更  北陸新幹線

1563. JR東日本 北陸新幹線 長野車両センター(長野基地)出庫不能 2026/05/19 原因の推定

1569. 北陸巡検10 JR西日本 白山総合車両基地変電所と白山車両基地内き電系統 北陸新幹線 現物と単結線図との照合

1570. 北陸巡検11 JR西日本 北陸新幹線 敦賀車両基地変電所 独自調査

 このほか、JR東日本 東北新幹線 青森車両基地変電所、JR九州 西九州新幹線 大村車両基地変電所 JR九州 九州新幹線 川内車両基地変電所が調べた限りでは不等辺スコット結線変圧器を使用している。JR東海 東海道新幹線については調べてない。

き電用の不等辺スコット結線変圧器を使用している変電所

822. JR東日本 藤代変電所・我孫子変電所 定点観察  新デッドセクション標識の行方 不等辺スコット結線変圧器稼動

交直接続点
 交流末端 長い間、三相の内二相を使って単相交流にしていたが不等辺スコット変圧器に交換された。

615. 阿武隈急行 保原変電所 (ATき電・交流)

 延長55㎞あるがBTき電だと交流変電所が2ヶ所必要なところ1ヶ所で済ませるためATき電を採用 更に変電所直下の異相区分デッドセクションを省くため不等辺スコット結線変圧器1台で55㎞をき電。JRとは別会社なので電力融通は行わないが槻木き電区分所でBT(JR側)からATへの延長き電設備があり、供給電力量計も備わっている。

682. 仙台空港鉄道 空港鉄道変電所とデッドセクション BTき電

 延長約7kmの短い路線。JR東日本からの延長き電でも賄えるが独立した会社なので東北電力美田園変電所の隣に空港変電所を設け不等辺スコット結線変圧器1台でき電。

700. JR東日本 村上変電所(交直)とデッドセクション 羽越本線 700投稿記念 元旦号

交直接続点
 交流末端でスコット結線変圧器が使えないため、不等辺スコット結線変圧器でき電。不等辺スコット結線変圧器は、温海き電区分所を延長き電で大館変電所までき電する能力を持つ

901. 東北巡検その二 JR東日本 男鹿変電所 男鹿線  EV-E801(ACCUM)用 AC20kV

ACCUM充電用に不等辺スコット結線変圧器を採用 6.6㎸から20kV昇圧

1177. 東北・北海道巡検13 JR北海道 函館本線・道南いさりび鉄道 五稜郭変電所

予備変圧器として不等辺スコット結線変圧器を設備、常用はスコット結線変圧器。

新幹線基地き電用の不等辺スコット結線変圧器を使用している変電所

249. JR東日本 田端車両基地変電所(新幹線・直接き電)全面書き直し

 以前は、新田端変電所から基地き電を行なっていた。新田端変電所に夜間定時停電があるため新設されて不等辺スコット結線変圧器で変電所定時停電の際に基地き電を行なっていた。しかし新田端変電所が分散二重化されたため廃止となった。

301. JR東日本 新黒磯補助き電区分所(新幹線・ATき電)

 小山新幹線車両センター那須塩原派出所の電留線滞泊電車の夜間補機に給電(車体保温)するため特殊な不等辺スコット結線変圧器が補助き電区分所内に設けられた。

648. JR東日本 新潟基地変電所(直接き電)交流

新潟基地用 

694. JR東日本 仙台基地変電所 新幹線 単相き電

仙台 利府の新幹線総合車両センター用

1216. 東北・北海道巡検37 JR北海道 北海道新幹線 函館総合車両所変電所

函館総合車両センター用

1258. 信州巡検19 JR東日本 北陸新幹線 長野車両基地変電所の現状

 長野車両基地用 冬季オリンピック時への対応で平衡装置にSFCを追加しかし、短絡容量が大きい受電系に変更のため平衡装置の運用は停止

1569. 北陸巡検10 JR西日本 白山総合車両基地変電所と白山車両基地内き電系統 北陸新幹線 現物と単結線図との照合

白山総合車両基地用

1570. 北陸巡検11 JR西日本 北陸新幹線 敦賀車両基地変電所 独自調査

敦賀車両基地用

まとめ

 仙台空港線の使用車両はE721系を使用しIPM(素子保護機能付IGBT)素子による3レベルPWMコンバータ + 2レベルインバータなのでスコット角は45°と思われる。
 
 阿武隈急行線の使用車両は713系を使用し長い間サイリスタ位相制御だったのでスコット角は25~30°と思われる。新しく導入される車両はIPM(素子保護機能付IGBT)素子による3レベルPWMコンバータ + 2レベルインバータとなるので不等辺スコット結線変圧器がスコット45°に交換される可能性はありうる。
 
 羽越本線の村上変電所も初期は485系、EF81型のようなダイオード整流タップ制御車の運行であり、現在はPWNコンバーター・インバーターのE653系、EF510型、EH500型が運転されているので不等辺スコット結線変圧器のスコット角は45°と思われる。普通列車はDCで運転されている。

 田端、黒磯は不明点が多いので除いている。長野基地の設備(電留線数)の割に容量が大きいのは、設置当時長野までしか新幹線は開通していないので、新坂城変電所が落ちた場合 長野基地電源で軽井沢までき電するためである。現在は、新長野変電所がその役目を持つ。(実際は、水害で新赤沼き電区分所が無くなったので新坂城変電所からの片送りを行なっている。)

 直接き電とはき電用変圧器で電車線き電用電圧を出力しているものを示す(30kV )ATを噛ましていない状態となる。


参考資料

新井浩一「不等辺スコット変圧器による単相負荷の3相平衡法」鉄道技術研究資料 37-6(1980年6月)pp.262-267(原典は鉄研報告 No.1131、1979年11月)

持永芳文「不等辺スコット結線変圧器による交流電気鉄道用電源不平衡補償装置の開発」電気学会論文誌D Vol.110-D No.1(1990)pp.42-43

兎束哲夫;「電圧不平衡補償装置」鉄道技術アラカルト-58-+:RRR pp.34-35,2009.3 

電気設備技術基準の解釈 










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