目次と免責事項

2026年9月18日

1599. 電気車の力率が変電所の不等辺スコット結線変圧器を替える

1. 初代機は二次巻線が等しくなかった
 新潟車両基地変電所のき電用変圧器は、不等辺スコット結線変圧器である。現行機は明電舎製、2015年のもの。

 1593.では、この方式が力率1の設計点で二次の二巻線が等しくなることを、一次66kV・二次22kVの例で示した。新潟の斜辺は30kVであるから、同じことがt-o間21.21kV、m-o間21.21kVという形で現れる。 \(30/\sqrt{2}=21.213\) である。

 なお、銘板の短絡インピーダンスも12500kVA基準でt-o間6.70%、m-o間6.69%とほぼ同一で、両巻線が等しいことの証拠にはならない。

 新井は変圧器のもれインピーダンスを \(x_t=x_{tm}\cos^{2}\varphi\)\(x_m=x_{tm}\sin^{2}\varphi\) と配分すべきことを示しており、そう設計すれば百分率では \(\%x_{tm}=\%x_t=\%x_m\) となる。スコット角が何度であっても、この配分に従うかぎり三つは等しくなる。

 だが、この変電所の初代機は、その二次巻線が等しくなかった。

 上越新幹線工事誌の単結線図が記す二次電圧は、コンデンサ側27.19kV、リアクトル側12.68kV、斜辺30kV。同じ場所、同じ用途、斜辺の30kVも同じでありながら、その配分がまるで違う。

 変わったのは30kVの配分だけである。ではその配分は何が決めているのか。答えは変電所の側にはない。この変電所に出入りする車両が変わったこと「サイリスタ位相制御車からPWM制御車」に変更されたそのままの結果である。新潟車両基地は更新前の記録が工事誌に残っており、同じ場所でその前後を比べることができる。以下、それを追う。


図1 不等辺スコット結線変圧器 銘板 現行機

図1 一次側と二次側の関係 拡大 現行機

2. スコット角とは何か
 1593.では、不等辺スコット結線変圧器がM座・T座を直列につなぎ、その斜辺(S座)から単相を一組だけ取り出す構成であることを述べた。
 斜辺の電圧を \(v_S\)、t-o間の巻線電圧を \(v_t\)、m-o間の巻線電圧を \(v_m\) とする。
 この二つの巻線は90°の位相差にある。したがって三者は直角三角形をなし、斜辺は文字どおり斜辺である。
$$v_S=\sqrt{v_t^{2}+v_m^{2}}$$
 このとき、斜辺 \(v_S\) がT座電圧 \(v_t\) となす角を スコット角 \(\varphi\) という。すなわち
$$v_t=v_S\cos\varphi,\qquad v_m=v_S\sin\varphi$$
であり、逆に解けば
$$\varphi=\arctan\frac{v_m}{v_t}$$
となる。

 新潟基地の銘板は、この角度を「逆L角度」と印字している。これは製造者の造語ではない。新井は1979年の鉄研報告で、モデル実験の項に「\(V_t\) に対する \(V_{lm}\) の遅れ角度(以下逆L角度という)」と定義を置いている。銘板の表記は、この学術用語をそのまま採ったものである。t座にコンデンサ、m座にリアクトルを接続する結線が逆L字を描くことによる。銘板の値は45°、そして「負荷力率角度0°」と併記されている。

 注意すべきは、この角度が二次側からしか読めないということである。一次電圧はスコット角と無関係で、後述のとおり新潟基地は一次154kVのまま25°から45°へ変わっている。実機のスコット角を知りたければ、銘板のt-o間とm-o間の電圧を見て \(\arctan(v_m/v_t)\) を計算する。それがもっとも確実な方法である。

 なお、斜辺 \(v_S\) を一定に保てば、直角の頂点oは \(tm\) を直径とする円周上を動く。タレスの定理である。斜辺の長さは変わらないまま、直角をはさむ二辺の配分だけが変わる。その位置を決めるのが、次節で述べる負荷の力率角である。

【図2 スコット角の定義とo点の軌跡 斜辺を一定に保てばoは半円上を動く】

3. スコット角を決めるもの
 では、なぜ45°なのか。設計者が任意に選べる値ではない。

 不等辺スコット結線変圧器は、単相負荷を三相側で平衡させるために、t-o間にコンデンサ、m-o間にリアクトルからなる平衡装置を接続する。新井浩一「不等辺スコット変圧器による単相負荷の3相平衡法」(鉄道技術研究資料 37-6、1980年6月。原典は鉄研報告 No.1131、1979年11月)が、この方式の理論を与えている。同じ理論は、これに先立つ新井浩一「不等辺スコット変圧器による三相平衡法について教えて下さい」(電気鉄道 Vol.33 No.3、1979年3月)にも述べられている。以下の式はそちらの表記に従う。

 負荷を \(W\)、その力率角を \(\theta\) とする。 \(\theta\) は力率 \(\cos\theta\) を角度に直したもので、力率1なら \(\theta=0°\)、力率0.9なら \(\theta=25.8°\)、力率0.8なら \(\theta=36.9°\) である。新潟基地の銘板が「負荷力率角度0°」と印字しているのは、この \(\theta\) が0°、すなわち力率1であるという意味である。

 新井の与える条件は一つである。三相側から見て力率が1、かつ不平衡がゼロとなるようにせよ。この条件から、M座・T座それぞれの負担と、接続すべきリアクトル \(Q_L\)、コンデンサ \(Q_C\) が定まる。
$$Q_L=m\cdot\frac{w}{v}\cos(\theta+\varphi),\qquad Q_C=t\cdot\frac{w}{v}\sin(\theta+\varphi)$$
 そして両者が釣り合う条件として
$$m\sin(\theta+\varphi)=t\cos(\theta+\varphi)$$
が要る。ここに \(m/v=\sin\varphi\)、\(t/v=\cos\varphi\) を代入すれば
$$\sin\varphi\sin(\theta+\varphi)=\cos\varphi\cos(\theta+\varphi)$$
 左辺を右辺へ移して加法定理でまとめると \(\cos(\theta+2\varphi)=0\)、すなわち \(\theta+2\varphi=90°\) である。よって
$$\varphi=45°-\frac{\theta}{2}$$
 スコット角を決めているのは、負荷の力率角ただ一つである。 \(\theta=0°\)、つまり力率1なら \(\varphi=45°\)。力率が下がって \(\theta\) が大きくなれば、スコット角はその半分だけ小さくなる。
 
 このとき補償容量は
$$Q_C=\tfrac{1}{2}W(1+\sin\theta),\qquad Q_L=\tfrac{1}{2}W(1-\sin\theta)$$
と決まる。コンデンサ側が大きく、リアクトル側が小さい。両者の合計は \(Q_C+Q_L=W\) で、負荷の皮相電力にちょうど等しい。

 ここから、この方式の利点が出てくる。リアクタンス値を計算すると

$$X_L=\frac{m^{2}}{Q_L}=\frac{v^{2}\sin^{2}(45°-\theta/2)}{\frac{W}{2}(1-\sin\theta)}=\frac{v^{2}}{W},\qquad X_C=\frac{t^{2}}{Q_C}=\frac{v^{2}}{W}$$
 両者は等しく、しかも負荷の力率角によらない。力率が変わればスコット角も補償容量も変わるが、リアクタンス値だけは負荷の皮相電力だけで決まる。新井はこれを本方式の利点として挙げている。力率の変動と皮相電力の変動を分離して扱えるので、装置の構成が簡単になる。

 なお、これは設計の出発点ではなく到達点である。 \(X_L=X_C\) を課したから \(\varphi=45°-\theta/2\) が出たのではない。三相側を平衡させ力率を1にせよという要求から巻線比と補償容量が定まり、その結果として二つのリアクタンスが一致したのである。
【図3 \(\varphi=45°-\theta/2\) の関係 横軸に力率角と力率を併記】

4. 初代機は力率0.766に合わせてあった
 上越新幹線工事誌に、新潟車両基地変電所の初代設備の記録がある。受電は154kV架空2回線、き電用変圧器は不等辺スコット結線で容量45MVA、これがFTr1・FTr2の2台。受電端容量6,469MVA、受電用しゃ断器31.5kA。三相平衡化のリアクトルとコンデンサは、現状負荷の6,000kW2組を設置したとある。

 注目すべきは単結線図に記された二次電圧である。コンデンサ側27.19kV、リアクトル側12.68kV、斜辺30kV。
 前節の式に当てはめる。
$$\varphi=\arctan\frac{12.68}{27.19}=25.00°$$
 検算すると
$$30\cos 25°=27.19\,\mathrm{kV},\qquad 30\sin 25°=12.68\,\mathrm{kV},\qquad \sqrt{27.19^{2}+12.68^{2}}=30.00\,\mathrm{kV}$$
小数点以下まで一致する。

【図4 上越新幹線工事誌 新潟車両基地変電所 単結線図】

 \(\varphi=25°\) は \(\theta=40°\) を意味する。すなわち
$$\cos 40°=0.766$$
 
補償容量の比も見ておく。前節の式から
$$\frac{Q_C}{Q_L}=\frac{1+\sin 40°}{1-\sin 40°}=\frac{1.6428}{0.3572}=4.60$$
 電圧比の二乗は
$$\left(\frac{27.19}{12.68}\right)^{2}=4.60$$
 一致する。ただしこれは独立した検証ではない。前節で見たとおり \(X_L=X_C\) が成り立つ以上、容量比が電圧比の二乗に等しくなるのは式の上で当然だからである。ここで確かめられたのは、実機の二次電圧が新井の式どおりに作られているという一点である。

 その一点を、原典の側からも確かめられる。新井・渡辺(1982)は、力率角 \(\theta\) とスコット角度 \(\varphi\)、およびt座電圧の対応を五段の表にして示している。 \(\theta=30°\) から50°まで、 \(\varphi\) は30.0°から20.0°まで、t座電圧は25.98kVから28.19kVまで。その第三行が \(\theta=40°\)、\(\varphi=25.0°\)、t座電圧27.19kVである。工事誌の単結線図に記された値そのものであり、新潟の初代機がこの表のどの行を採ったかが分かる。

 同表は補償装置の実効容量比も併記している。装置の電圧定格を \(\varphi=20°\) のときのt座電圧28.19kVで取ってあるため、 \(\varphi\) が大きくなるほど実効容量は下がる。 \(\varphi=25°\) では93.0%である。同じ6MVAの補償装置を各変電所に共用し、選んだ \(\varphi\) に応じて実効容量だけが変わるという設計になっている。

【図5 スコット角度φとコンデンサの実容量比 新井・渡辺(1982)表5より作図】

初代機は、力率0.766の負荷を前提として巻線比が決められていた。

5. 0.766はどこから来たか
  力率0.766とは何だったのか。

 上越新幹線は1982年11月に大宮~新潟間が開業した。当時の車両は200系である。主回路はサイリスタ位相制御で、直流電動機を駆動する方式であった。
 この制御方式は、位相を遅らせて電圧を絞る動作の性質上、力行時の力率が下がる。

 ただし、この変電所が受け持つのは本線を走る電車ではない。車両基地の中だけにき電する変電所である。新井は1979年の鉄研報告のまえがきで、この方式が生まれた事情をこう記している。新幹線網が北へ広がるのにつれ、車両基地における車両の融雪および暖房用の電力が増大し、車両基地専用のき電変電所を設置する必要が生じた。この変電所は基地内の配線構成上、車両運用上も単相き電とすることが望まれる、と。

 方式の出発点に融雪がある。これから見る力率角の内訳も、そこに帰ってくる。
 したがって \(\theta=40°\) が想定しているのは、基地に留置され、構内を動く車両の負荷である。新井・渡辺(1982)が仙台車両基地で実測した値がその内訳を示している。補機と暖房、あるいは補機と冷房で12両1編成あたり750kVA、力率角は約25°遅れ。凍結防止用ヒータは1編成10Aで44°遅れ。構内力行電車は1編成200Aで31°遅れ。
 容量の桁が違うことに注意がいる。構内力行の200Aは30kVで一編成あたり5.85MVAにあたり、補機と暖房の750kVAの八倍近い。留置編成が何本あっても、一本が力行すればそちらが総合の力率角を支配する。総合力率角は留置と力行の比で刻々と変わる量であって、単一の値として決まるものではない。

 同論文は、12両編成3本と6M+1両1本を対象とした測定から、将来の多数編成留置の場合の総合力率角を30°遅れ程度と予想している。実機の40°とは10°の開きがある。だがこの二つは比べるべきものではない。

 1979年11月の鉄研報告は、あとがきをこう結んでいる。本方式は東北新幹線仙台車両基地、上越新幹線新潟車両基地に対するき電変圧器として実用化されることが決定し、不等辺スコット変圧器の製作中である、と。仙台の測定が行われたのは1981年の2月と9月であるから、変圧器のスコット角は試験の一年半前に確定していた。同報告のあとがきは、今後実系統において負荷の実態調査を行いたいとも述べており、1982年の現地試験はここで予告されたものであった。

 容量の桁が違うことに注意がいる。構内力行の200Aは30kVで一編成あたり5.85MVAにあたり、補機と暖房の750kVAの八倍近い。留置編成が何本あっても、一本が力行すればそちらが総合の力率角を支配する。総合力率角は留置と力行の比で刻々と変わる量であって、単一の値として決まるものではない。
 
 同論文は、12両編成3本と6M+1両1本を対象とした測定から、将来の多数編成留置の場合の総合力率角を30°遅れ程度と予想している。実機の40°とは10°の開きがある。だがこの二つは比べるべきものではない。

 1979年11月の鉄研報告は、あとがきをこう結んでいる。本方式は東北新幹線仙台車両基地、上越新幹線新潟車両基地に対するき電変圧器として実用化されることが決定し、不等辺スコット変圧器の製作中である、と。仙台の測定が行われたのは1981年の2月と9月であるから、変圧器のスコット角は試験の一年半前に確定していた。同報告のあとがきは、今後実系統において負荷の実態調査を行いたいとも述べており、1982年の現地試験はここで予告されたものであった。

 力率角40°は試験の前に置かれた想定であり、30°は試験の後に得られた予想である。前後関係が逆なのだから、食い違いを説明する必要はない。

 その40°を裏づける事実がある。仙台車両基地変電所の初代機も、二次はt-o間27190V、m-o間12680V。新潟と同一である。東北・上越の車両基地に共通の設計値だったことになる。工事誌にも原典にも、この40°をどう見積もったかは記されていない。

 その40°を裏づける事実がある。仙台車両基地変電所の初代機も、二次はt-o間27190V、m-o間12680V。新潟と同一である。東北・上越の車両基地に共通の設計値だったことになる。工事誌にも原典にも、この40°をどう見積もったかは記されていない。

 平衡装置の側には、当時の事情がはっきり現れている。 \(\theta=40°\) では
$$Q_C=\tfrac{1}{2}W(1+\sin 40°)=0.82W,\qquad Q_L=\tfrac{1}{2}W(1-\sin 40°)=0.18W$$
であり、コンデンサ側が8割強を負担し、リアクトル側の分担は2割弱にとどまる。

 新井はここで割り切っている。単相負荷の平衡化はコンデンサのみでも、リアクトルのみでも可能である。実用的な装置として経済性を考えれば、遅れ力率の負荷に対してはコンデンサだけを入れればよい。リアクトルを省いても、\(X_C=v^2/W\) としておけば三相側は平衡する。代わりに三相側の力率が \(\cos\varphi\) の進みとなるだけである。

 リアクトルを省いた場合の効果は、モデル実験で確かめられている。1979年の鉄研報告は、補償用リアクトルが負荷力率角の大きいほど小容量となることから、これを省略した場合を実験し、負荷力率角30°で18%、40°で55%の平衡効果があったとしている。可成りの効果があり、場合によっては省略も可能である、というのがその結論であった。

 新潟の設計値は力率角40°(スコット角25°)である。リアクトルを省いても半分以上の平衡効果が残る領域にあたる。

 工事誌の単結線図で、o-t間のコンデンサC₁・C₂(89PC(断路器)・52PC付き(遮断器))が実線で描かれ、m-o間のユニットが点線であるのは、この判断による。後回しにされたのではなく、設計として省かれている。

 そのコンデンサには、12%の直列リアクトルが付属する。投入時の異常現象の防止、電源への高調波電流の拡大の防止、そして第3次高調波の低減効果を考慮したものである。

そのコンデンサは1バンク6MVAが2組で、固定ではない。負荷の変動に応じて投入と開放を行う。無補償、C₁のみ、C₁とC₂の両方という三段階である。制御は時刻と電流のAND条件によるもので、定置車両数の変化による24時間周期の変動を追う。構内走行負荷の短時間変動を除けば、この周期の変動は緩慢で安定していると想定されていた。

 新井が1979年3月の記事で、負荷の皮相電力や力率には変動があり、負荷の想定にも誤差を生じるから、連続的な制御を行わない限り完全な平衡化は困難であると述べ、次善の策として段階的な制御を挙げていたのは、これを指している。群数は2段から3段、タップは3段から5段で十分であろう、というのがそのときの見通しであった。

 変圧器側のタップについては、同年11月の鉄研報告がより踏み込んでいる。負荷の皮相電力の変動に比べれば力率の変動は小さいので、コンデンサのタップは皮相電力の変動に応じて切り替える必要があるが、変圧器のタップは力率に対応して切り替える必要がない。力率の想定の誤差を考慮してタップを設けておき、最適タップを運転開始後に決定して固定することとなり、負荷時タップ切替の必要はないと思われる、と。新潟と仙台が採ったのは、群数2段と固定タップである。

 ただしこれは方式一般の設計法であって、新潟の実機がそう作られたことを意味しない。単結線図に二次側タップの表示はない。設計の時点で力率角40°と決めていたのなら、タップを設ける必要そのものがなかったことになる。実機が採ったのは、コンデンサの群数2段だけである。
 
 そのコンデンサには、12%の直列リアクトルが付属する。投入時の異常現象の防止、電源への高調波電流の拡大の防止、そして第3次高調波の低減効果を考慮したものである。

6. 力率1の時代へ
 その200系が引退する。

 E5系の増備によって捻出されたE2系が、2013年1月26日から上越新幹線に転用された。200系は2013年3月15日をもって定期運用を終え、翌4月14日、新潟発着の「さよなら200系号」1往復をもって完全に引退した。開業から30年あまりであった。

 置き換えたE2系、そして併用されていたE4系は、いずれもPWM制御による主回路である。電源側のコンバータが入力電流の波形と位相を制御するため、力率をほぼ1に保つことができる。これがサイリスタ位相制御との決定的な違いである。

 この違いは、基地の負荷にも及ぶ。前節で見た構内力行の31°遅れは、そのまま主回路の力率である。留置中の補機や空調も、車両の世代が替われば電源装置ごと替わる。基地に出入りする車両が入れ替われば、基地の負荷の力率も入れ替わる。

 とはいえ、交代は一日で起きたわけではない。1994年のE1系、1997年のE4系とE2系と、PWM制御の車両は段階的に増えている。基地に留置される編成の顔ぶれが少しずつ入れ替わり、負荷の実効的な力率は二十年ほどをかけて連続的に1へ近づいた。その終点が2013年3月であった。

 その過程で、\(\theta=40°\) を前提とした初代機の巻線比は、少しずつ最適から外れていった。外れたのは最適性であって、成立性ではない。25°の変圧器が力率1の負荷を負うことに、何の支障もない。そのことは第11節で計算する。

7. 2015年の不等辺スコット結線変圧器の交換機
 変圧器が交換されたのは2015年である。

 現行機は2台設置され、常時1台で運用されている。銘板の記載は、一次154kV、二次t-m間30kV、そして二次接続図に「負荷力率角度0°」「逆L角度45°」。定格容量は、平衡装置が付かない場合12500kVA、平衡装置が付いた場合25000kVAの二段表記である。
 一次側のタップは4段。切換器指示1から順に、177.1kV、169.4kV、161.7kV、154.0kV。定格の154.0kVを起点として、+5%、+10%、+15%にあたる。二次側の力率タップは、銘板に記載がない。
 初代機の力率タップは、第5節に見たとおり運転開始後に決定して固定するものであった。

 一次側と二次側の関係 拡大

 新井は二次側に力率タップを設ける設計法を示していた。だが新潟の初代機の単結線図にも、現行機の銘板にも、二次側タップの記載はない。両機とも、スコット角は製作時に決められたまま動かない。

 同じ「タップなし」でも、意味は違う。初代は力率角40°という想定を置いて作られ、その想定が外れれば手の打ちようがなかった。現行機は力率1という前提が動かないので、そもそも備える必要がない。45°は可変範囲の中から選ばれた一点ではなく、はじめから固定値である。

 容量は45MVA×2台から12500/25000kVA×2台(常時1台運用)へと大きく下がった。

【図6 更新前後の二次側ベクトル図 斜辺30kVの配分が25°から45°へ変わる】

8. 銘板の一次電流を追う
 この銘板には、一次側の三相電流が、平衡装置なしの場合とありの場合の両方について、4段のタップすべてに記載されている。これを計算で追ってみる。

 まず二次側。平衡装置なしの欄は、t-m間30kV・417Aである。t-o間巻線とm-o間巻線は直列であるから、同一の電流417Aが両巻線を流れる。各巻線の容量は
$$21.21\times 417=8{,}845\,\mathrm{kVA}$$
 
 両巻線は90°の位相差にあるので、合成した見かけの容量は \(\sqrt{2}\) 倍となり
$$\sqrt{2}\times 8{,}845=12{,}507\,\mathrm{kVA}$$
 これが左欄の12500kVAである。一般に、斜辺の容量を \(W\) とすれば各巻線の分担は \(W/\sqrt{2}\) である。

 次に一次側。ここで、M座巻線とT座巻線が受ける電圧が違うことに注意が要る。

 M座巻線はU相端子とW相端子の間に張られるので、線間電圧をそのまま受ける。一方、T座巻線はV相端子とM点との間に張られる。M点はM座巻線の中点であり、幾何学的には正三角形の頂点Vから対辺UWに下ろした垂線の足である。正三角形の頂点から対辺の中点までの距離は一辺の \(\sqrt{3}/2\) 倍であるから、T座巻線が受ける電圧も線間電圧の \(\sqrt{3}/2\) 倍になる。

 1593.では66kV系でこれを扱い、\(66\times\sqrt{3}/2=57.158\) kVという値を得た。 \(\sqrt{3}/2\) は結線の幾何そのものであって受電電圧によらないから、154kV系でも同じ係数がかかる。定格タップ \(V_1=154.0\) kVでは
$$V_M=154.0\,\mathrm{kV},\qquad V_T=154.0\times\frac{\sqrt{3}}{2}=133.4\,\mathrm{kV}$$
 各巻線の容量は二次と同じ8,845kVAだから
$$I_M=\frac{8845}{154.0}=57.4\,\mathrm{A},\qquad I_V=\frac{8845}{133.4}=66.3\,\mathrm{A}$$
 銘板のV相電流は66.3A。一致する。

 ここからが要点である。T座巻線に流れる \(I_V=66.3\) A は、M点で二等分されてU側とW側へ分かれる。その半分は33.2Aである。一方、M座巻線にはU-W間を貫いて57.4Aが流れている。両者は同相であるから、一方の端子では加算、他方では減算となる。銘板の割り当てに従えば
$$I_U=57.4+33.2=90.6\,\mathrm{A}$$
$$I_W=57.4-33.2=24.3\,\mathrm{A}$$
 銘板は90.5/66.3/24.3A。三相とも一致する。

 一般式は
$$I_M=\frac{W}{\sqrt{2}\,V_1},\qquad I_V=\frac{2}{\sqrt{3}}I_M,\qquad I_{U,W}=I_M\left(1\pm\frac{1}{\sqrt{3}}\right)$$
である。
 他の3段のタップも同様に計算できる。177.1kVでは78.7/57.6/21.1A、169.4kVでは82.3/60.2/22.1A、161.7kVでは86.2/63.1/23.1A。いずれも銘板の値に一致する。
 
 平衡装置が付いた場合の欄は、三相が平衡するのだから単純に
$$I=\frac{25000}{\sqrt{3}\,V_1}$$
である。154.0kVで93.7A、161.7kVで89.3A、169.4kVで85.2A、177.1kVで81.5A。これも4段とも銘板に一致する。
 銘板に記された12個と4個、合計16個の電流値が、すべて計算で再現できたことになる。

【図7 一次三相電流の合成 M座57.4AとT座33.2Aの加減がU相90.5AとW相24.3Aを生む】

9. なぜ加減算でよいのか
  前節では、T座の電流をM座の電流に単純に足し引きした。ベクトル合成ではない。これには理由がある。

 標準のスコット結線変圧器であれば、M座とT座は独立した二回路に給電するから、両座の電流に決まった位相関係はない。二つの負荷は別々の電車が作るものであり、大きさも位相もそれぞれである。一次側の電流はベクトルとして合成するほかない。

 だが不等辺スコットでは両座の巻線が直列であり、同一の二次電流を分担している。一次側に現れる電流はいずれもその二次電流の実数倍であって、位相が一致する。だからベクトル合成ではなく、単純な加減算になる。

 このことは、銘板の数字そのものからも読み取れる。
$$66.3+24.3=90.6$$
 最大の相電流が、他の二相の和にちょうど等しい。三つの電流が一直線上に並んでいる、すなわち位相のうえで同相か逆相しかない、ということである。平衡装置を持たない不等辺スコット結線変圧器は、三相側から見れば純粋な単相負荷にほかならない。逆相分が最大になるのは当然である。

 二次側では90°の位相差を持つ二つの巻線を用いながら、直列にして一系統だけを取り出すことによって、その90°が三相側では失われている。三相二相変換の装置でありながら、単相にしか使わない。不等辺スコット結線変圧器が平衡装置を必要とするのは、この構造そのものによる。

 比を取ると
$$I_U:I_V:I_W=\left(1+\frac{1}{\sqrt{3}}\right):\frac{2}{\sqrt{3}}:\left(1-\frac{1}{\sqrt{3}}\right)=(\sqrt{3}+1):2:(\sqrt{3}-1)$$
 この結果は文献にも式の形で与えられている。兎束哲夫「自励式電力変換器を用いた交流電気鉄道の三相不平衡補償に関する研究」(日本大学 博士論文、2016年)の(4.2)式は、45°の不等辺スコット結線変圧器を無補償で用いたときの三相電流を
$$\dot{I}_U=\left(-1-\frac{1}{\sqrt3}\right)\frac{\dot{I}}{\sqrt2}e^{-j\pi/4},\quad \dot{I}_V=\frac{2}{\sqrt3}\cdot\frac{\dot{I}}{\sqrt2}e^{-j\pi/4},\quad \dot{I}_W=\left(1-\frac{1}{\sqrt3}\right)\frac{\dot{I}}{\sqrt2}e^{-j\pi/4}$$
と与える。
 三式が同じ \(e^{-j\pi/4}\) を共有し、係数はすべて実数である。U相だけが負符号を持つ。位相が三つとも揃っているということが、式の形にそのまま現れている。銘板の \(66.3+24.3=90.6\) が示していたのは、このことであった。

 同論文は係数の大きさをU相・V相・W相の順に1.93 : 1.41 : 0.52としている。これは平衡時の相電流を1とした規格化で、閉じた形では
$$\frac{\sqrt{3}+1}{\sqrt{2}}:\sqrt{2}:\frac{\sqrt{3}-1}{\sqrt{2}}=1.932:1.414:0.518$$
である。銘板の値を \(12500/(\sqrt{3}\times154)=46.86\) Aで割れば \(90.5/46.86=1.93\)、\(66.3/46.86=1.41\)、\(24.3/46.86=0.52\) となり、一致する。

 1593.ではこの比をV相基準で \(1.366:1:0.366\) と書いた。同じ比を2で割ったもので、
$$(\sqrt{3}+1):2:(\sqrt{3}-1)\;\xrightarrow{\ \div 2\ }\;\frac{\sqrt{3}+1}{2}:1:\frac{\sqrt{3}-1}{2}=1.366:1:0.366$$
の関係にある。
 ここで2倍の形を採ったのは、T座巻線電流がM点で二等分されるという前節の導出に合わせたためである。 \(I_V=2\) と置けば分割後の各半分が1となり、M座の \(\sqrt{3}\) との加減がそのまま \(\sqrt{3}+1\) と \(\sqrt{3}-1\) を与える。

 銘板の値をV相基準に直せば \(90.5/66.3=1.365\)、\(24.3/66.3=0.366\)。1593.で導いた三相電流比が、そのまま実機の銘板の数字として現れている。


10. 二段定格が意味するもの
 ここで、平衡装置なし12500kVA、平衡装置あり25000kVAという二段定格の意味が見えてくる。

 左欄の三相電流のうち最大はU相の90.5A。右欄は三相とも93.7A。容量は倍違うのに、最大相電流はほとんど同じである。

 変圧器の一次巻線と端子を律しているのは電流であって、見かけの容量ではない。平衡装置がなければU相だけが平均の \((\sqrt{3}+1)/2=1.366\) 倍に突出するため、斜辺で12500kVAを送った段階でU相の電流が上限に達してしまう。平衡装置を入れて三相を揃えれば、同じ電流で倍近い電力を通せる。

 その比は
$$\frac{W_{\text{平衡あり}}}{W_{\text{平衡なし}}}=\frac{\sqrt{3}+1}{\sqrt{2}}=1.932$$
である。 \(12500\times1.932=24{,}150\) kVA。実機はこれを25000kVAに丸めており、その分だけ右欄の電流が3.5%高い(90.5A→93.7A)。

 平衡装置は、三相側の電圧不平衡を抑えるための装置である。それが同時に、変圧器そのものの使用可能容量をほぼ倍に引き上げている。銘板の二段表記は、その事実を数字で示したものであった。


11 25°のまま使い続けたら
 ここで、変圧器を交換しなかった場合を考えてみる。初代機を残したまま、力率1の車両だけが走るようになったとしたら、何が起きたか。

 式の上では、変圧器の側は \(\varphi=25°\) に固定されたまま、負荷の側だけが \(\theta=40°\) から \(\theta=0°\) へ動いたという状況である。第3節で導いた \(\varphi=45°-\theta/2\) は、この二つが釣り合っている条件だった。いま釣り合いが崩れている。 \(\theta=0°\) に対する正しいスコット角は45°であるはずのところ、実機は25°のままなのである。

 まず確かめておくべきことがある。座間の有効電力の配分は、平衡装置では動かせない。コンデンサもリアクトルも純リアクタンスであり、有効電力を消費も供給もしないからである。動かせるのは無効分だけであって、有効分の偏りは巻線比と負荷の力率角だけで決まってしまう。
 負荷 \(W\)、力率角 \(\theta\) のとき、各座が負担する有効電力は
$$P_t=W\cos\varphi\cos(\varphi+\theta),\qquad P_m=W\sin\varphi\sin(\varphi+\theta)$$
である。両者が等しいという条件を課すと \(\tan\varphi\tan(\varphi+\theta)=1\)、すなわち \(\varphi+\theta=90°-\varphi\) となり
$$\varphi=45°-\frac{\theta}{2}$$

 第3節では三相側の平衡と力率1という条件からこの式を導いたが、有効電力の配分だけからも同じ式が出る。平衡装置は無効分の後始末をしているにすぎない。スコット角が合っていなければ、平衡装置に何をさせても手遅れなのである。
 
 では \(\varphi=25°\) の変圧器に \(\theta=0°\)、すなわち本来なら \(\varphi=45°\) を要求する負荷を掛けるとどうなるか。
$$P_t=W\cos^{2}25°=0.821W,\qquad P_m=W\sin^{2}25°=0.179W$$
 座間の差は
$$P_t-P_m=W(\cos^{2}25°-\sin^{2}25°)=W\cos 50°=0.643W$$
 これが平衡装置では動かせない残留分である。

 この差が、そのまま三相側の逆相分になる。逆相電流を \(I_2\)、正相電流を \(I_1\) とすれば、その比は
$$\frac{I_2}{I_1}=\frac{|P_t-P_m|}{W}$$
である。分母の \(W\) は二座の有効電力の和、すなわち \(P_t+P_m\) にほかならない。一般の \(\theta\) について書けば、本節冒頭の式から
$$\frac{I_2}{I_1}=\frac{|W\cos\varphi\cos(\varphi+\theta)-W\sin\varphi\sin(\varphi+\theta)|}{W}=|\cos(2\varphi+\theta)|$$
 加法定理でまとめただけである。力率1すなわち \(\theta=0°\) を代入すれば
$$\frac{I_2}{I_1}=\cos 2\varphi$$
 \(\varphi=25°\) では \(\cos 50°=0.643\)。正相分を100とすれば、逆相分が64残る。

 この式は、第3節の \(\varphi=45°-\theta/2\) の裏返しでもある。 \(2\varphi+\theta=90°\) のとき \(\cos(2\varphi+\theta)=0\) となって逆相分が消えるが、これは \(\varphi=45°-\theta/2\) と同じ条件である。スコット角の設計式は、逆相分をゼロにする条件そのものだったということになる。


【図8 スコット角と、コンデンサとリアクトルによる平衡装置で消せない残留逆相率 \(I_2/I_1=|\cos(2\varphi+\theta)|\) 力率1では \(\cos 2\varphi\)】
 
 補償をまったく行わなければ、第9節で見たとおり不等辺スコットは純粋な単相負荷であり、 \(I_2/I_1=1\) である。最適な補償を施してこれが0.643まで下がる。すなわち
$$1-0.643=0.357$$
 消せるのは元の逆相分の36%にとどまる。平衡装置が本来ゼロにできるはずのものを、三分の一しか消せないということである。

 この \(\cos 2\varphi\) という残留分は、スコット角だけの関数である。45°でゼロ、そこから外れるほど大きくなり、極限の0°では1.0、すなわち平衡装置がまったく効かなくなる。25°の0.643は、その途中にある。

 平衡装置そのものも合わなくなる。第3節で示した必要補償容量は、負荷の力率角 \(\theta\) の関数であった。
$$Q_C=\tfrac{1}{2}W(1+\sin\theta),\qquad Q_L=\tfrac{1}{2}W(1-\sin\theta)$$
 初代の平衡装置は \(\theta=40°\) で設計されている。 \(\sin 40°=0.643\) であるから
$$Q_C=0.82W,\qquad Q_L=0.18W$$
 ところが負荷が力率1になると \(\theta=0°\)、これは \(\varphi=45°\) を要求する条件である。 \(\sin 0°=0\) となって
$$Q_C=Q_L=\tfrac{1}{2}W$$
 コンデンサとリアクトルが同容量でなければならない。既設の0.82対0.18とはまるで違う。
 
 ただし、この \(\frac{1}{2}W\) という値は \(\varphi=45°\) の変圧器を前提とした式から出たものである。 \(\varphi=25°\) の変圧器では、そもそも逆相分をゼロにできない。この場合の最適値、すなわち残留逆相分を最小にする補償容量は
$$Q_C=Q_L=W\sin\varphi\cos\varphi=\tfrac{1}{2}W\sin 2\varphi$$
となる。 \(\varphi=25°\) では \(\sin 50°/2=0.383\) であるから
$$Q_C=Q_L=0.383W$$
 C側もL側も同じ0.383Wである。既設は \(\theta=40°\) 用のC=0.82W、L=0.18Wであるから、どちらも外れている。そして平衡装置を取り替えたところで、先に見た64%は残る。
 ところが、それでも省令には触れない。 \(0.643\times25=16.1\) MVA相当、受電端容量を2,000MVAと仮定すれば不平衡率は0.80%であり、3%を大きく下回る。電圧不平衡だけを見るなら、25°のまま使い続けることは可能だった。

 では容量の方はどうか。逆相分が残るぶん一次側の相電流は偏り、最大相電流で頭打ちになる。第10節で見たとおり、変圧器を律しているのはこの最大相電流である。

 割増の程度は計算できる。最適な補償を施したときの一次三相電流を求めると、負荷1MVAあたりU相3.291A、V相6.159A、W相3.291Aとなる。二相が等しくなり、一相だけが突出する。平衡時の相電流は \(1000/(\sqrt{3}\times154)=3.749\) Aであるから、最大相電流の割増は
$$\frac{6.159}{3.749}=1.643\ \text{倍}$$

 この値は逆相率0.643にちょうど1を加えたものである。最適補償の後に残る逆相分は有効電力の偏りだけであり、正相分と位相が揃うため、一方の相で単純に足し算になる。第10節で見た45°無補償の1.932倍は、正相と逆相に30°の位相差があって完全には足し合わされない場合であった。事情が違う。

 一般に、力率1の負荷に対してスコット角 \(\varphi\) の変圧器を最適補償した場合、最大相電流の割増は
$$\frac{I_{\max}}{I_1}=1+\cos 2\varphi$$
となる。 \(\varphi=45°\) なら \(\cos 90°=0\) で割増は1倍、すなわち完全平衡である。 \(\varphi=25°\) なら \(\cos 50°=0.643\) で1.643倍になる。スコット角が45°から外れた分だけ、変圧器が痩せるということである。

 45MVA機の平衡時の相電流は \(45000/(\sqrt{3}\times154)=168.7\) Aであるから、この制約の下で通せる容量は
$$\frac{45}{1.643}=27.4\ \mathrm{MVA}$$
 現行機の定格25MVAを上回っている。容量の面でも足りていた。

 結局、25°のまま使い続けることは、電圧不平衡から見ても容量から見ても可能だったことになる。逆相分を64%出し続け、平衡装置も \(\theta=40°\) 用のままで整合しない、という状態ではあるが、運転そのものは成り立つ。45MVAという初代機の余裕が、スコット角の不整合を吸収してしまうのである。

 では2015年の交換は何によって決まったのか。それを記した資料を持っていないので、確かなことは言えない。1982年の設置から33年という経過は、更新の時期として不自然ではないという程度である。

 分かるのは、更新にあたって選ばれた機械の姿の方である。ただしその姿は、新潟固有の判断で決まったものではないらしい。1593.が示したとおり、二次巻線の等しい45°の不等辺スコット結線変圧器は、新潟だけのものではない。

 新幹線の車両がすべてPWM制御になった以上、力率1はもはや個々の変電所が見積もる条件ではなく、設計の前提そのものである。45°はその前提の下での標準設計点にほかならない。逆に言えば、基地の負荷を個別に見積もって巻線比を決めた初代機の25°の方が、特異な設計だったことになる。車両の側が統一されていない時期にしか成り立たない設計である。

 車両の力率が動かしたのは、交換の可否ではなく、交換機の姿であった。そしてその姿は、新潟に出入りする車両を見て決めたものではなく、新幹線の車両が行き着いた先を見て決めたものである。

12 スコット角45°という設計点の敏感さ
 前節ではスコット角25°の変圧器を扱ったが、視点を現行機に移すと、図7の曲線はもう一つのことを語っている。曲線の傾きが、45°でもっとも急なのである。

 \(\cos 2\varphi\) を \(\varphi\) で微分すれば \(-2\sin 2\varphi\) であり、傾きが最大になるのは \(\sin 2\varphi=1\) すなわち \(\varphi=45°\) のときである。逆に0°付近では \(\sin 0°=0\) で傾きが消え、曲線は平らになる。

 45°の近くを詳しく見る。 \(\varphi=45°-\varepsilon\) と置けば
$$\cos 2\varphi=\cos(90°-2\varepsilon)=\sin 2\varepsilon\simeq 2\varepsilon$$
 残留逆相率は、ずれの2倍で立ち上がる。1°のずれで0.035、5°のずれで0.174。もっとも望ましい設計点である45°は、同時にもっとも誤差に敏感な点でもある。

 負荷の側から見ても同じことである。 \(\varphi=45°\) に固定した現行機に力率角 \(\theta\) の負荷が掛かれば、残留逆相率は
$$|\cos(2\varphi+\theta)|=|\cos(90°+\theta)|=\sin\theta$$
 力率0.99(\(\theta=8.1°\))で0.14、力率0.98(\(\theta=11.5°\))で0.20である。

 力率1を前提とした設計は、その前提がわずかに崩れただけで逆相分を出す。

 新井論文が二次巻線に \(\Delta\varphi\) が5°刻みのタップを設けることを説いたのは、この敏感さゆえであった。現行機がそのタップを持たないのは、PWM制御では、電源側のコンバータが入力電流の波形と位相を制御するため、力率をほぼ1に保つことができる。第7節で述べたタップの不在は、この曲線の傾きに支えられている。

 もっとも、この依存を断つ方法がなかったわけではない。コンデンサとリアクトルは固定のリアクタンスであるから、設計時に決めた一つの力率角にしか合わせられない。これを自励式の電力変換器に置き換えれば、負荷の力率角の変化に追随でき、一台の変圧器でサイリスタ位相制御の車両とPWM制御の車両の両方に対応できる。長野基地変電所で1997年に実用化された方式である。

 導入の理由は、弱電源地域で強力な車両負荷を扱うことにあった。受電点の短絡容量が小さければ、同じ負荷でも不平衡率は大きく出る。コンデンサとリアクトルだけでは補償しきれない領域があり、そこを自励式変換器が埋めた。逆に言えば、新潟がコンデンサとリアクトルだけで足りていたのは、強力な電源に支えられていたからである。その事情は第14節で見る。
 だが現地で確認したかぎり、長野のその装置はいま切り離されている。各変電所が拠っているのは、短絡容量の大きな送電線から受電することである。それで足りない場合に、コンデンサとリアクトルによる受動的な補償を加える。

13. 平衡装置はC・Lの二枝になった
 銘板の二次接続図には、左右の欄で異なる図が描かれている。左(平衡装置なし)はt・m・oの三角形だけ。右(平衡装置あり)は、同じ三角形のt-o間にコンデンサCの記号、m-o間にリアクトルLの記号が加えられている。新井の示した標準構成そのものである。
 
 なぜT座側がコンデンサで、M座側がリアクトルなのか。力率1の負荷を掛けたときの各座の無効分を見ればよい。補償のない45°の機械では、T座が \(0.707W\angle 45°\)、M座が \(0.707W\angle -45°\) となる。T座には遅れ無効電力が、M座には進み無効電力が生じる。それぞれ \(0.5W\) である。遅れにはコンデンサ、進みにはリアクトルを当てて打ち消す。第3節で示した \(Q_C\) と \(Q_L\) の式は、この打ち消しを一般の力率角について書いたものにほかならない。
 
 初代機がコンデンサ枝のみを実装していたことは第5節に述べた。 \(\theta=40°\) ではリアクトルの分担が2割弱にとどまり、経済性を優先して省かれたのである。だが力率1の \(\theta=0°\)、すなわち \(\varphi=45°\) の現行機では事情が変わる。
$$Q_C=Q_L=\tfrac{1}{2}W$$
 
 コンデンサとリアクトルが同容量になる。ここでコンデンサだけを入れれば、三相側は平衡するものの、力率は \(\cos 45°=0.707\) の進みとなる。 \(\theta=40°\) の時代であれば \(\cos 25°=0.906\) の進みで済み、しかも遅れ力率の負荷を打ち消す方向に働いていた。力率1の負荷を相手にすると、コンデンサ単独では力率をかえって悪化させる。両枝が揃って必要になるのは、そのためである。
 定格の25000kVAを当てはめれば
$$Q_C=Q_L=12.5\,\mathrm{Mvar},\qquad X_C=X_L=\frac{v_S^{2}}{W}=\frac{30^{2}}{25}=36\,\Omega$$
 検算すると \(21.21^{2}/36=12.5\) Mvar。第3節で見た \(X_C=X_L=v_S^{2}/W\) がここでも成り立っている。
 
 ただし断っておく。この値は変圧器の銘板に記された定格から導いたものである。平衡装置そのものは建屋内に収容されており、その銘板を読むことはできない。以下、平衡装置の内訳について述べる数値は、すべて推定である。

コンデンサ枝の直列リアクトル

 ここでひとつ補っておかねばならないことがある。新井論文の回路図は、t-o間にコンデンサ、m-o間にリアクトルを描くだけである。だが実機のコンデンサ枝には、必ずコンデンサと直列にリアクトルが入る。理論図にないのは、それが理論図だからにすぎない。
 
 直列リアクトルの役目は二つある。コンデンサ投入時の突入電流を抑えること、そして高調波に対して枝を誘導性にし、拡大を防ぐことである。コンデンサのリアクタンスに対する比率を \(k\) とすると、枝の直列共振次数は
$$n_{0}=\frac{1}{\sqrt{k}}$$
であり、これより高次では枝は誘導性となって高調波を拡大しない。
 
 一般の三相配電では \(k=6\%\) が標準で、このとき \(n_{0}=4.08\) となる。三相系では変圧器のいずれかが必ずΔ結線であり、平衡負荷に対する第3調波はそこで吸収されるため、実際に問題となるのは第5調波である。6%は第5調波を誘導性側に置くための値ということになる。

 ところが単相のき電回路には、そのΔによる逃げ道がない。第3調波が残るため、共振次数を3より下に置く必要がある。
$$\frac{1}{\sqrt{k}}<3\quad\Longrightarrow\quad k>\frac{1}{9}=11.1\%$$
 き電用の平衡装置で12%あるいは13%が用いられるのは、この要求による。藤代変電所の平衡装置はコンデンサ群3,410kvarに対し直列リアクトル410kvar、すなわち12%であった。函館総合車両所変電所でもコンデンサ側に直列リアクタンスが入っていることを確認している。保原変電所では、単結線図のコンデンサ575kVAに対し説明文が500kVAと記しており、この食い違いも単体定格と実効出力の差として説明がつく。
 
 この直列リアクトルは、m-o間の平衡用リアクトル \(Q_L\) とはまったく別のものである。両方に「リアクトル」の語が付くため取り違えやすいが、平衡用リアクトルは独立した枝として単独で機能し、直列リアクトルはコンデンサ枝の中に組み込まれた付属品である。
 
 直列リアクトルが入ると、先に求めた36Ωの読み方が変わる。36Ωは枝全体の合成リアクタンスであって、コンデンサ単体の値ではない。コンデンサ単体のリアクタンスを \(X_C\) とすれば
$$X_C-kX_C=X_C(1-k)=36\,\Omega$$
であるから、 \(k=0.12\) とすれば \(X_C=36/0.88=40.9\,\Omega\)。枝電流は \(21.21/36=589\) A、コンデンサ端子の電圧は \(589\times40.9=24.1\) kVへ上がり、コンデンサ単体の定格は
$$24.1\times0.589=14.2\,\mathrm{Mvar}$$
となる。直列リアクトルはその12%で1.7Mvar、分担電圧2.9kV。差し引けば \(24.1-2.9=21.2\) kVで、t-o間の巻線電圧に戻る。

 新潟基地の平衡装置は建屋内にあり、直列リアクトルの有無も \(k\) の値も現地で確かめる手立てがない。上の12%は藤代の実装例から置いた値である。

 ただし推定の幅は狭い。単相のき電回路である以上 \(k>11.1\%\) が要求され、実用されている値は12%か13%のいずれかに限られる。 \(k=0.13\) とすれば \(X_C=36/0.87=41.4\,\Omega\)、コンデンサ端子電圧24.4kV、単体定格14.4Mvarとなり、12%の場合の14.2Mvarとほとんど違わない。新潟基地の平衡装置のコンデンサは、単体定格14Mvar程度、端子電圧24kV程度と推定される。リアクトル側は直列リアクトルを持たないので、36Ω・12.5Mvarがそのまま推定値である。

現地での確認
 現地では、平衡装置を収める建屋の壁面へ、t・m・oの三本が引き込まれているのが見える。碍子と断路器を経て建屋内へ入る構成で、断路器は閉路であった。平衡装置が切り離されずに運用されていることが、ここから読める。
 断路器の架台には「300PCB」の赤い札が付いている。

 初代機の単結線図では、コンデンサに89PC・52PCの記号が付されていた。この形式は機器番号と設備記号の組み合わせで、89が断路器、52が遮断器という機器の種別を表し、PCが設備すなわち並列コンデンサ(Parallel Capacitor)を指す。

 300PCBはこれとは形式が違う。数字が先、記号が後ろで、しかも300は機器番号として使われる数字ではない。したがってこの札は機器の種別を示すものではなく、設備ないし回線そのものの呼称と読むべきものであろう。PCの記号系が引き継がれているとすれば、並列コンデンサ設備の第300番、といったところである。断路器はその設備に属する機器として、同じ呼称で括られていることになる。
 ただし、この読みは記号の形式からの推測であって、確定したものではない。


【図7 平衡装置建屋へのm・o・t引込部(断路器・閉路)】

【図8 断路器架台の「300PCB」表示)】

14. 受電点の短絡容量はどうなったか
 1593.では、平衡装置の要否が受電点の短絡容量で決まることを述べた。単相負荷による三相側の電圧不平衡率は、おおむね負荷の大きさを短絡容量で割った値になる。

 制約は二段ある。まず法令で、電気設備技術基準第55条および解釈第212条が、連続2時間の平均負荷で電圧不平衡率を3%以内と定めている。これに加えて、兎束論文が述べるところでは、鉄道会社が電力会社から受電する際の個別契約条件として、三相の各相間電圧変動率を一定以下、たとえば2%ないし3%に抑えることを求められる例が増えているという。単相鉄道負荷による不平衡は、実際には数秒から数分の短時間の電圧変動として現れるから、2時間平均という法令の枠だけでは捉えきれないためである。車両基地のように負荷が断続する場所では、なおのことこの短時間の変動が問題になる。

 同論文はまた、日本の交流電気鉄道が三相不平衡を軽減する手立てとして、変電所で三相二相変換を行い二組の単相を方面別に異き電すること、そしてできるだけ強力な電源から受電することの二つを挙げている。後者は、短絡容量が単なる立地の結果ではなく、不平衡対策そのものであることを意味する。

 この枠組みで見ると、新潟車両基地は奇妙な例である。
 工事誌の受電端容量は6,469MVA。同じ154kV受電の新中之口変電所(1号1,738MVA、2号3,100MVA)の2〜3.7倍であり、275kV受電の新渋川4,545MVA、新湯沢4,884MVA、新川口4,487MVAをも上回る。

 この値がどれほど外れているかは、文献の一般値と比べるとはっきりする。持永芳文「高速大容量電気鉄道負荷に適した交流き電システムに関する研究」の表1.1は、き電用変電所の受電電圧と三相短絡容量の概略値を示している。新幹線の特別高圧受電(77、154kV)で500〜3,300MVA、超高圧受電(220、275kV)で3,000〜10,000MVA。在来線は特別高圧(66、77、110、154kV)で300〜3,000MVA、超高圧(187、275kV)で1,200〜6,000MVAである。

 新潟車両基地の6,469MVAは、154kV受電でありながら、特別高圧の上限3,300MVAのほぼ倍にあたる。数字だけを見れば超高圧受電の変電所である。

 理由は立地にある。新潟車両基地変電所は、一次変電所を介して新潟火力発電所に接続していた。同発電所は1号12.5万kW、2号12.5万kW、3号25万kW、4号25万kWの汽力4基、合わせて75万kW。1982年の開業時は全基が稼働していた。
 そしてこの立地は、おそらく結果ではなく選択である。強力な電源から受電することが不平衡対策そのものだとすれば、6,469MVAという値は偶然の産物ではない。不等辺スコット結線変圧器は、方面別の異き電という対策を使えない。二次が斜辺一系統だけだからである。三相二相変換で二方面へ振り分けるという手立てが最初から封じられている以上、残る手立ては強力な電源から受電することと、平衡装置を置くことの二つになる。新潟はその両方を採っていたことになる。

 この短絡容量に対して、初代機45MVAの不平衡率は
$$\frac{45}{6469}=0.70\%$$
である。省令の3%を大きく下回る。それでも平衡装置は設置された。不平衡率だけでは説明がつかない。

 説明は第10節にある。平衡装置は電圧不平衡を抑えるためだけの装置ではなく、変圧器の使用可能容量をほぼ倍にする装置でもあった。短絡容量が潤沢で不平衡率が問題にならない地点であっても、変圧器から定格の電力を取り出すためには平衡装置が要る。新潟の初代機は、その例だったことになる。

 そして現在、前提の方が変わっている。新潟火力の汽力設備は、2号機が1983年、1号機が1984年、3号機が2009年、4号機が2018年に順次廃止された。現在の出力は10万kWにとどまる。1982年に6,469MVAという値を支えていた至近の大電源は、もはやない。

 現在の受電端容量は公表されていないため確かなことは言えない。ただ、表1.1の帯(新幹線・特別高圧で500〜3,300MVA)と、同じ上越新幹線の新中之口の実績値(1,738/3,100MVA)はよく一致している。至近の大電源を失った新潟基地の値も、この帯の中へ戻っていると見るのが自然であろう。仮に2,000MVAとすれば、現行機25MVAに対する不平衡率は
$$\frac{25}{2000}=1.25\%$$

 3%には収まるが、初代の0.70%の倍近い。短絡容量が下がった分を、負荷容量の低下が半分ほど埋め合わせている、という形である。

初代機を残していたら
 ここで、第11節の仮定に戻ってみる。初代機45MVAをそのまま使い続けていたら、短絡容量の低下は何をもたらしたか。

 1593.では、平衡装置の要否を分ける実務上の目安が1.5%前後であることを述べた。省令の3%ではなく、こちらが設置判断の線になる。
 1982年の条件、すなわち短絡容量6,469MVAに45MVAを無補償で掛けたときの不平衡率は
$$\frac{45}{6469}=0.70\%$$
 目安の半分以下である。平衡装置がなくても成立していた。
 なお、この \(W/P_s\) という形は図7の左端にあたる。平衡装置を持たない不等辺スコットは、斜辺から取り出す単相負荷を一方の座に集中させたのと等価であり、残留逆相率は1.0、すなわち負荷がそのまま逆相分になる。だから不平衡率は負荷を短絡容量で割った値そのものになる。

 ところが短絡容量が2,000MVAまで落ちると、同じ45MVAで
$$\frac{45}{2000}=2.25\%$$
 目安の1.5%を超える。省令の3%には収まるが、平衡装置なしでは済まない領域に入る。しかも先に見た個別契約条件、各相間電圧変動率を2%ないし3%に抑えるという枠にも、正面から掛かってくる値である。変電所の設備は何ひとつ変えていないのに、電源側の事情だけで平衡装置の必要性が生じたことになる。

 しかも、その平衡装置が合っていない。初代のものは \(\theta=40°\) 用に作られており、力率1の負荷に対してはコンデンサ0.82W・リアクトル0.18Wという配分が外れている。仮に \(\theta=0°\) 用に取り替えたとしても、第11節で見たとおりスコット角25°では逆相分の64%しか消せないから
$$\frac{0.643\times45}{2000}=1.45\%$$
 最適な補償を施してなお、目安の1.5%をかろうじて下回る値にしかならない。余裕がほとんど残らない。

 現行機の25MVAなら、無補償で1.25%、最適補償で0.80%である。容量を落としたことが、短絡容量の低下を打ち消している。

 もっとも、これらはいずれも省令の3%を超えるものではない。25°の45MVA機を使い続けること自体は、なお可能だった。第11節の結論は変わらない。

 ただし、余裕は二方向から痩せている。短絡容量の低下は平衡装置の必要性を高め、力率1化は平衡装置の効きを落とした。無補償の2.25%は前者だけで決まる数字である。不等辺スコットは平衡装置がなければ純粋な単相負荷であり、そこにスコット角は関与しないからだ。これに対して、最適補償でも1.45%にしかならないのは後者による。逆相分の64%が消せないのは、スコット角25°と力率1が食い違っているためである。

 二つは別々の原因でありながら、同じ方向に働いている。片方は電源側の事情、もう片方は車両側の事情であって、変電所はそのどちらにも手を出せない。
 その負荷容量の低下にも、力率が関わっている。工事誌は45MVAを「将来の負荷増を考慮した」値と明記しており、実負荷はこれより小さかった。加えて、力率が0.766から1になれば、同じ有効電力に対する皮相電力は0.766倍、すなわち23%減る。有効電力が同じでも、変圧器に要求される容量はそれだけ小さくて済む。

 受電側では短絡容量が下がり、負荷側では所要容量が下がった。平衡装置が建屋に残され、いまも投入されたままであることは、この両方向の変化と矛盾しない。


15. 「不等辺」という名について
 スコット角が45°になり、二次巻線電圧が等しくなった。ならばこれはもう不等辺ではないのか。

 名の由来は、巻線比そのものにある。鉄道技術アラカルト-58-は、車両電力の力率に合わせてM座とT座の分担比をあらかじめ調整し、三相側のアンバランスの乱れを小さくすることが「不等辺」の由来であると述べている。サイリスタ位相制御の車両ならT座側の電圧を高く設定してスコット角を小さくとり、PWM制御の車両なら45°として分担比を11にする、と。二辺が等しくないのは、その調整の結果であった。初代機の27.1912.68kVが、まさにそれである。

 その意味でいえば、45°の現行機はもはや不等辺ではない。分担比は11で、調整は行われていない。

 それでも不等辺スコット結線変圧器と呼ばれる。呼称が指す対象が、巻線比から方式全体へ移ったからである。

 1593.で述べたとおり、この変圧器はM座・T座を直列にし、斜辺から単相を一系統だけ取り出す。本線用の標準スコット結線変圧器がM座・T座からそれぞれ独立に二方面へき電するのとは、出力の系統数が違う。加えて、三相側を平衡させるために平衡装置を伴う。この構成は45°でも何ひとつ変わらない。

 新井論文のまえがきは、この方式を「従来とは異なった変圧器2次巻線電圧、使用方法となる」と述べている。二次巻線電圧と使用方法の二つを挙げているが、いま残っているのは後者だけである。名が残り、名の由来だけが消えた。

 そして、その由来を消したのは変電所の側の都合ではない。分担比の調整という手続きが要らなくなったのは、車両の力率が1に揃ったからである。同じ場所、同じ用途、斜辺電圧も同じ30kV。変わったのは30kVの配分だけであり、それは走る電気車の力率が0.766から1になったことの、そのままの帰結であった。

 初代機の25°は、200系の時代に基地の負荷を見積もって置いた数字だった。何をどう見積もったのかは、いまとなっては分からない。現行機の45°はそうではない。新幹線の車両がすべて力率1に到達したという、その到達点を写した数字である。個別の変電所が個別の車両を見て分担比を決める時代が終わり、力率1が設計の前提になった。銘板の45°は、その前提が確定したことの記録なのである。


参考資料
文献
新井浩一「不等辺スコット変圧器による三相平衡法について教えて下さい」電気鉄道 Vol.33 No.3、1979年3月、pp.32-35。この方式の最初の公表。 \(\varphi=45°-\theta/2\)、\(Q_C\)・\(Q_L\)、\(X_L=X_C=v^2/W\) の導出、およびタップ段数の考え方。

新井浩一「不等辺スコット変圧器による単相負荷の3相平衡法」鉄道技術研究報告 No.1131、鉄道技術研究所、1979年11月(原稿受理1979年8月9日)。鉄道技術研究資料 37-6、1980年6月に再録。もれインピーダンスの配分、逆L角度の定義、補償用リアクトル省略時の平衡効果、固定タップの考え方、モデル実験。

新井浩一・渡辺寛「不等辺スコット変圧器による不平衡補償装置の実用化」電気鉄道 Vol.36 No.2、1982年2月、pp.21-25。仙台車両基地での現地確認試験、スコット角度と実容量比の対応、コンデンサ単独での平衡化、12%の直列リアクトル。

兎束哲夫「自励式電力変換器を用いた交流電気鉄道の三相不平衡補償に関する研究」日本大学 博士(工学)論文、2016年5月19日公開。無補償時の三相電流の式と比、電圧不平衡に関する法令と契約条件、三相不平衡の軽減策。

兎束哲夫「電圧不平衡補償装置」鉄道技術アラカルト-58-、RRR、pp.34-35、2009年3月。「不等辺」の名の由来、T座コンデンサ・M座リアクトルの配置の理由。

持永芳文「高速大容量電気鉄道負荷に適した交流き電システムに関する研究」東京理科大学 博士(工学)論文、1994年3月20日。き電用変電所の受電電圧と三相短絡容量の概略値。

一次資料
日本鉄道建設公団編『上越新幹線工事誌 大宮・新潟間』日本鉄道建設公団、1984年3月(国立国会図書館デジタルコレクション)。新潟車両基地変電所の初代設備の単結線図および諸元。同線各変電所の受電端容量。

新潟車両基地変電所 現行機の銘板(明電舎、2015年)。二次接続図、逆L角度、二段定格、一次タップ、三相電流。
現地写真(平衡装置建屋への引込部、断路器架台の表示)。

法令
電気設備技術基準 第55条、同解釈 第212条。

前稿
「1592. スコット結線変圧器は、なぜ187kV以上で使えないのか 中性点の所在と三つの難点」
「1593. スコット結線変圧器から不等辺スコット結線変圧器へ ―― 斜辺から取り出すということ」

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